食事介助の注意点とは丨正しい方法を詳しく説明
作成日:2022年9月26日
食事は高齢者にとって楽しみである反面、加齢に伴って食べる機能が低下すると、誤嚥や窒息などリスクが伴うことがあります。
高齢になっても口から安全に食事を楽しんでいただくための食事介助について説明します。
高齢者の食事介助が必要な理由
人の食べる機能は他の哺乳類とは異なった特有の進化をしており、とても複雑な仕組みがあります。
そのため加齢によって体のさまざまな機能が低下することで、食べることにも支障が起こることがあります。
適切な食事介助をすることで食べる機能を補い、安全に食事を楽しむことができます。
理由①味覚や嗅覚が衰える
加齢によって鼻の粘膜や口腔内の環境が変化すると、においや味を感じにくくなることがあります。
嗅覚と味覚は相互作用があり、においがわからないと味も感じられなくなります。
一般的に男性は60歳代、女性は70歳代くらいから嗅覚や味覚が低下すると考えられています。
理由②かむ力も衰える
自分の歯が何本あるか、これまでにどのような歯の治療をしてきたか、入れ歯が合っているかなどの条件でも異なりますが、高齢者の噛む力は、若い頃と比較すると1/3~1/10にも低下すると考えられています。
前歯が無いと食べ物を噛み切ることが難しくなり、奥歯が無いと食べ物を噛み砕いたり、すりつぶすことが難しくなります。
理由③嚥下障害の人もいる
「摂食嚥下」は食べ物を目で確認してから、口、喉、食道を通って胃に至るまでの過程を指し、「嚥下」とは食べ物をゴックンと飲み込む動作のことです。
加齢に伴って摂食嚥下の一連の過程に障害がおこることがあり、嚥下障害によって食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入り込んでしまう「誤嚥」が起こることがあります。
誤嚥によって生じる肺炎を誤嚥性肺炎と呼び、近年は高齢者の死亡原因として増加傾向にあります。
理由④消化器官が衰える
加齢に伴い、胃や小腸、大腸では粘膜の萎縮や消化液の分泌低下、蠕動運動の低下などが起こります。
これらの機能低下によって、食欲減退や胃もたれ、胸やけ、便秘などの消化器症状があらわれることがあります。
理由⑤食事を楽しめずストレスを感じる
口腔機能が低下したり、疾患や薬の副作用などによる食欲低下や味覚の変化などによって、食べたいものが食べられなくなったり、食事をおいしいと感じられずに、食事を摂ること自体を楽しめなくなることがあります。
また睡眠不足や運動量の低下、精神的なストレスが原因となって食欲が減退し、悪循環を招くこともあります。
高齢者の食事の特徴について
加齢に伴う身体機能の変化によって、それまでの食生活自体が変化することがあります。その変化には、本人も気づかないことがあります。
特徴①濃い味付けを好む
嗅覚や味覚が低下することで味がわかりにくくなり、濃い味付けを好むようになることがあります。
またおいしさを構成する上で重要なうま味や、味に深みを与える苦みや渋みなど、複雑な味がわかりにくくなるため、何を食べても単調に感じられるようになることがあります。
特徴②柔らかいものを好む
噛むために必要な口唇周辺の筋力が低下したり、自分の歯の減少、入れ歯の不具合などによって、かたいものや繊維の強いものが食べにくくなり、柔らかいものを好んで食べるようになることがあります。
噛む回数が減少することでさらに噛むために必要な筋力は低下し、食べる食品に偏りが生じて、全身状態にも悪影響を及ぼす可能性があります。
特徴③乾燥した食事は嫌う
加齢に伴って唾液の分泌量は減少します。そのため乾燥した食品は口腔内でまとまりにくく、噛んだり飲み込んだりすることが難しくなります。
いも類やクッキー、ドーナツなどポソポソとした食べ物は飲み物を飲みながら食べたり、板海苔やかつお節など口腔内に張り付くものは、あらかじめ他の食品と和えて湿らせておくなどの工夫をすると食べやすくなります。
また脂肪の少ない肉や魚も加熱調理によってパサパサすることがあるため、あんをかけるとパサつきを抑えることができます。
特徴④胃もたれしやすい
胃は食べたものを一定時間ためておき、消化しやすい状態にして小腸に送り込みます。
加齢によって胃の蠕動運動や消化機能が低下することで、食物が胃の中にとどまる時間が長くなるため、胃もたれがおこりやすくなります。
特徴⑤のどが渇いても気が付きにくい
高齢者では喉の渇きを感じる「口渇中枢」の働きが低下するため、喉の渇きを感じにくくなります。
発汗などによって体内の水分が失われていても自覚症状がなく、さらに加齢に伴って体内に保持されている水分量は減少しているため、若い世代に比べて早く脱水症状に陥る可能性があります。
食事介助の前の事前準備
1日に3回の食事は高齢者にとって楽しみであるだけではなく、生活のリズムを整えたり、朝・昼・夕の時間感覚を維持するためにも役立ちます。
そのため、食事はできるだけ毎日同じ時間に摂れるのが理想的です。
食事の時間が決まっていることで服薬を忘れることが防げたり、持病や排便のコントロールにも役立ちます。
ポイント①食事前に声をかける
これから食事であることを言葉で伝えましょう。朝食なのか、昼食なのか、夕食なのかを言葉で伝えたり、メニューの内容を説明するなどの声をかけることで意識が食事に向き、食事に集中しやすくなります。
ポイント②排泄を済ませる
食事の前にはトイレに行っていただき、排泄を済ませておきましょう。
食事の途中でトイレに行きたくなると食事に対しての集中が途切れ、落ち着いて食事がとれなくなることがあります。
また高齢者ではトイレに時間がかかることもあり、トイレをきっかけに食欲がなくなり、食事を中断してしまう可能性もあります。
ポイント③食事のための環境を整える
食事を初める前に食事場所の環境を整えましょう。暑すぎたり寒すぎたりしないように室温を整え、明るさにも配慮しましょう。
テレビなどは消して、食事に集中できるようにします。
周囲で人が動き回っていると気になってしまう方もいるので、他の家族の方も一緒に食事を摂れるのが理想的です。
ポイント④口腔内を清潔にする
食事の前に口腔ケアをしましょう。高齢者では唾液の分泌が減少していることで、口腔内に有害な細菌が増えている可能性があります。
誤嚥性肺炎や感染症の予防のためにも、食前の口腔ケアは有効とされています。また口腔ケアの刺激によって唾液の分泌も促進されます。
ハブラシでブラッシングしたり、口腔ケア用のスポンジなどを使用して口腔内を清拭します。可能であれば、ブクブクうがいをしましょう。
入れ歯がある場合は外して水洗いしてから装着します。口腔内が清潔になることで味も感じやすくなり、食事をおいしく摂ることができます。
ポイント⑤献立を説明する
食事の献立内容を説明しましょう。
特に他の家族とは異なる料理を用意している場合や、小さくきざんだりしている場合には、献立の名前を伝えるだけではなく、使用している食材や味付けも説明するとイメージがしやすく、安心して食べることができます。
ポイント⑥食事の前に水分補給
食事のときには飲み物や汁物を用意し、最初に水やお茶、汁物を飲んでいただくようにすることで、乾燥した口腔内を潤して唾液の減少を補います。
液体にむせ込みがある場合には、必要に応じてとろみ剤を使用することもありますが、スプーンですくって飲んだり、ストローを使用することでむせ込まずに飲むことができるケースもあるので試してみましょう。
食事中における介助の注意点
むせ込みや誤嚥・窒息などの事故を防ぐために、食事中にもチェックしたいポイントがあります。
食事介助の具体的な内容や方法は食べる方の状態によって異なりますが、ご本人の食べ方やペースに合わせて食事を進めることが基本です。
ポイント①食事介助では正しい姿勢を取らせる
いすに座ったときに最も安定した座位は、腰、膝、足首の関節が直角で、足底が床に着いた状態なので、可能な範囲でこの状態に近い座位をとっていただきましょう。
体格が小さく、足が床に届かない方の場合は、足元に踏み台や雑誌を束ねたものを置くなどの工夫をしましょう。
高齢者では筋力の低下によって上体をまっすぐに保持することが難しいことがあります。
ひじ掛けのあるいすを用意したりクッションをあてるなどして、上体が傾いたり臀部がずり落ちたりしないように補正しましょう。
ポイント②介助者が隣に座る
介助者は食べる方の隣に座るようにしましょう。正面に座ると、監視されているような圧迫感を感じることがあります。
麻痺がある方の場合は、基本的に麻痺のない側に座ります。介助者はできるだけ食べる方と目線を合わせた位置になるようにします。
人は本能的に人の顔を見る習性があるため、介助者の顔が高い位置にあると、食べる方は無意識に上を向いてしまいます。
上を向いてあごが上がった姿勢は、食道がつぶれて気管が開いた状態となるため、誤嚥のリスクが高い姿勢となります。
ポイント③水分が多いものから与える
食事の前には口腔内が乾燥している可能性があるため、比較的水分が多く飲み込みやすいものから食べ始めましょう。
食事が進むにつれて唾液の分泌も促進されると考えられます。
ただし、ご本人に食べたいものがある場合にはご本人の希望を優先し、食べる意欲を大切にしながら食事を進めましょう。
ポイント④嚥下できる適量を下からはこぶ
飲み込みやすいひと口の量には個人差がありますが、一般的には、少なすぎても多すぎても飲み込みにくいと考えられます。
食べる方の口や喉の動きをよく観察し、ひと口の適量を把握しましょう。
スプーンを使って介助をする場合には、適量をスプーンにのせ、食べる方のやや下方か正面から口に運び、まっすぐにスプーンを引き抜きましょう。
ポイント⑤のどの動きを観察する
ゴックンと飲み込むとき、のど仏が指1~2本分上方に動きます。
口の中の食物を飲み込んだかどうかを外から確認するには、のど仏の動きを見る方法しかありません。
しっかりとのど仏が動いたのを確認してから次のひと口を入れましょう。
ただし、のど仏が動いて飲み込んだと思っても口を開けていただけない場合、しっかりと飲み込めていない可能性もあります。
そのような場合は、何も食べ物を入れないままゴックンと「空嚥下」をしていただきましょう。
ポイント⑥主食・副菜・水分を交互に与える
違う食感やかたさのものを交互に進めることで、咽頭に貯留した食物が飲み込めたり、食事に伴う疲労を軽減できることがあります。
またいろいろなものを交互に食べることで、残食があったとしても、栄養のバランスは整いやすくなります。
ポイント⑦食事を急かさない
加齢に伴う機能低下や、疾患による後遺症などによって、どうしても噛んだり飲み込んだりする行為に時間がかかることがあります。
介助者の気持ちが急いているのが伝わると、食べている方も落ち着いて食事に集中できなくなり、食欲の低下や誤嚥・窒息などのリスクが上昇します。
食事は食べる人のペースに合わせて進めることが、安全な食事介助の基本です。
食事介助が終わった後の注意点
食事が終わったあとも、やっておくべき介助があります。
ポイント①食事の摂取量を確認
食事がどのくらい食べられたかを確認しておきましょう。高齢者では体調不良の初めに食欲が低下することはよくあります。
食事量の変化をみることで早期に体調不良に気付くことができる可能性があります。
同時に排便の状況や体重変化についても確認できると、さらに健康管理に役立ちます。
ポイント②口腔ケアを補助する
高齢者では唾液の減少によって口腔内の自浄作用が低下します。口腔ケアによって虫歯や歯周病を予防するだけではなく、誤嚥性肺炎や感染症の予防にも役立ちます。
食後はハブラシでブラッシング後、可能であればブクブクうがいをしましょう。
入れ歯がある場合は、歯ブラシや義歯ブラシを使って流水で義歯を洗ってから装着し、寝るときは義歯は外しましょう。
ブクブクうがいが困難な場合は口腔ケアウエットティッシュを使用し、口腔内を清拭しておくとよいでしょう。
ポイント③服薬を忘れていないか確認
薬によって服用のタイミングは食前や食後がありますが、食後には薬の飲み忘れが無いか確認するようにしましょう。
複数の薬がある場合は、かかりつけの医師に相談して一包化(1回分の薬を1つの袋に入れる)してもらうと、確認が容易になります。
ポイント④すぐには横にならないようにする
高齢者では食道の筋力低下によって蠕動運動が低下し、飲み込んだ食物が胃に到達するまでに時間がかかることがあります。
食後すぐに横になると、食道に残っている食物が逆流してくる可能性があり、最悪の場合は窒息に至ることもあります。
食後は1時間を目安に座位を保持していただきましょう。
適切な食事介助を行おう
食事は生きるために必要な行為であると同時に、生活の中の楽しみでもあります。
加齢に伴う身体機能の変化によって、食べるための機能にもさまざまな変化がおきることがあります。
いつまでも安全に食事を楽しんでもらうために、食べる意欲を尊重しながら、適切な食事介助を行いましょう。