在宅介護のメリット・デメリットを解説
作成日:2022年9月26日
日本は「超高齢社会」の真っ只中にあり、要介護認定を受ける高齢者も増加しています。
年々介護需要が高まっている一方で、介護施設に入所したくても入れない高齢者が溢れつつあるのが現状です。
それゆえ、自宅にいながら家族や介護サービスのスタッフから介護を受ける在宅介護に注目が集まっています。
このページでは、在宅介護のメリットやデメリット、在宅介護で活用できる居宅サービスなどについて詳しく解説します。
目次
在宅介護のメリット
厚生労働省の「介護保険事業状況報告(月報・暫定)」令和3年12月分(10月サービス分)によると、在宅で介護または要支援者向けの介護予防サービスを受けた人は約409万人、施設に入所してサービスを受けた人は約96万人と、圧倒的に在宅で介護サービスを受けている人が多くなっています。
ここでは、在宅介護のメリットについて説明します。
住み慣れた自宅で介護ができる
在宅介護の大きなメリットの1つに介護の必要な方が住み慣れた自宅で安心して過ごせるという点が挙げられます。
施設従事者はもちろん介護のプロであり、充実したサービスを提供してくれる場所ではありますが、自宅でご家族に囲まれて過ごす安心感は比べようもありません。
「令和元年度高齢社会白書」によると、「最期を迎えたい場所はどこか」という質問に対し、60歳以上の約半数(51.0%)が「自宅」と回答しています。
このことから、多くの方が「住み慣れた自宅で最期を迎えるまで生活したい」と願っていることが分かります。
介護の自由度が高い
在宅介護のメリット2つ目は介護の自由度が高いことです。
施設は集団生活の場であり、入所者の自由度が低いことで生活の質が低下したり、他の入所者と人間関係のトラブルが発生したりする恐れがあります。
自宅であればそのような不便さはなく、プライバシーが保たれながら自由に生活を送ることが可能です。
また、介護をする側にとっても、自分の生活スタイルに合わせた介護ができ、大切な家族と共に過ごす時間を大切にできる、というメリットがあります。
必要なサービスを選択できる
在宅介護では、介護サービスの利用頻度や種類を本人の希望や介護者のスケジュール、かけられる予算などに応じて比較的自由に変えることができるため、柔軟に介護サービスを選択することができるという点も在宅介護のメリットの1つです。
介護者だけですべてを抱え込むのではなく、介護サービスを併用して孤立しない、ということも在宅介護を続けていく上では大切となります。
介護者が不在になる時間帯がある、入浴介助が大変、など在宅介護で困難が生じた時は、プロの介護スタッフに依頼することができます。
介護サービスの利用を検討したい場合は、担当のケアマネージャーや地域包括支援センターに相談してみましょう。
介護費用の軽減ができる
在宅介護のメリットの4つ目は、施設に入所するよりも費用を軽減することができる、ということです。
手すりやスロープをつけるなど自宅をバリアフリーに改装する場合には費用がかかりますが、施設への入所費用や月額料金と比べると費用を抑えることができます。
有料老人ホームの場合、入居一時金が平均95.7万円、月額が平均15.5万円と、多額のお金が必要になります。
在宅介護でかかる費用は平均5万円と言われており、家族だけで介護する「自力介護」を増やすと費用はさらに抑えることができます。
在宅介護のデメリット
在宅介護は前述のようなメリットがある反面、家族だけで対応できることには限界があります。
「在宅介護実態調査」の結果からは、現在の生活を継続していくにあたって、要介護3以上では、特に「認知症状への対応」と「夜間の排泄」について、主な介護者の不安が大きい傾向がみられました。
ここでは、在宅介護のデメリットについて説明します。
家族の負担が大きい
在宅介護のデメリットとして介護をする家族の負担が大きいことが挙げられます。
「令和4年度高齢社会白書」によると、同居の主な介護者の介護時間は、「要支援1」から「要介護2」までは「必要なときに手をかす程度」が多くなっていますが、「要介護3」以上では「ほとんど終日」が最も多くなっています。
ほぼ1日中介護にかかりきりになってしまうことで、「自分の時間が取れない」という精神的な負担や疲労や睡眠不足、介護による腰痛などの肉体的な負担が大きく鳴り、介護者自身が体調を崩してしまう原因にもなります。
また、家族を介護するために仕事を辞めざるをえなくなる「介護離職」によって経済的な負担が重くのしかかり、在宅介護を続けていくことに不安を感じているケースが少なくありません。
介護疲れを引き起こすリスクがある
要介護者等から見た主な介護者の続柄を見ると、同居している人が54.4%となっており、その主な内訳を見ると、配偶者が23.8%、子が 20.7%、子の配偶者が7.5%となっています。
要介護者等と同居している主な介護者の年齢は、男性では72.4%、女性では 73.8%が60歳以上であり、高齢の配偶者や子どもが介護するいわゆる「老老介護」 のケースも相当数存在していることが分かります。
高齢者が高齢者を介護するのは体力的にも厳しいものがあり、「介護疲れ」を引き起こす恐れがあります。
老老介護で、介護者が介護疲れから要介護者を殺害してしまった、という事件が後を絶ちません。
また、2019年の平均寿命は男性が81.41年、女性が87.45年であり、介護を必要としない年齢の平均値である健康寿命との差は男性が8.7年、女性が12.07年となっています。
それゆえに、要介護状態となってから長期的に先が見えない状況が続くこととなり、介護疲れによる虐待が起こってしまっているという問題もあります。
不測の事態に対処しにくい
どんなに居住空間を整えていても、身体機能や認知機能が低下している人の介護では、窒息や転倒、一人で外に出て行方不明となってしまうなど予期せぬ事態が発生することがあります。
特に認知症を有する場合、被害者となってしまうだけでなく、暴行や傷害、窃盗事件の加害者となってしまう事例も近年では多くなっています。
認知症を有する場合、民事の不法行為において責任能力がないと判断されると、介護者や保護をする人などの監督義務者が加害者に代わって賠償を求められる事例もあります。
過去に、2007年に認知症を有する高齢者が線路に立ち入り、列車にはねられて死亡した事故があり、JR側が振替輸送費等の損害賠償を家族に対して請求する訴訟を提起したこともありました。
また、警察庁生活安全局生活安全企画課の『令和2年における行方不明者の状況』を見ると、認知症またはどの疑いがある人が行方不明となり、警察に届け出があった件数は、年間約1万7千人にとなっており、70歳以上は年々増加傾向にあります。
行方不明となった高齢者のうち、70%程度は家族と同居しており、介護をされる側の高齢者を家族だけで24時間見張り続ける、ということは現実的に厳しいということが分かります。
在宅で活用できる居宅サービスの活用
介護サービスは、要介護、あるいは要支援と判定された方が介護保険を利用して受けることができるサービスです。
介護サービスには、施設に入所した要介護者が受ける「施設サービス」や、認知症対応型通所介護など生活圏を離れずに自立生活を営めるように支援する「地域密着型サービス」、在宅介護でも利用できる「居宅サービス」の3つがあります。
必要な介護サービスは各家庭によって状況が異なるため、ケアマネージャーに依頼して、本人や介護者にとってふさわしいケアプランを作成します。
居宅サービスとは?
居宅サービスとは、介護や支援の必要な方が自宅に住みながら必要に応じて受けられる介護サービスです。
大きく分けると「訪問」「通所」「宿泊」の3つのサービスがあります。
これらを利用することで、介護者の負担を減らしたり、リハビリテーションや医療処置などの専門的なサービスを受けたりすることができます。
また、「訪問」「通所」「宿泊」の3つのサービスの他にも、介護保険を利用して住宅改修の補助を受けられる制度や福祉用具の貸与・販売が受けられる制度等があります。
主な居宅サービスの種類
分類 | 種類 | 内容 |
訪問 | 訪問介護 | 介護士(ヘルパー)が訪問して介護を行う。身体介護と生活援助がある。 |
訪問看護 | 看護師、准看護士等が医師の指示書のもとに訪問し、医療的なケアを行う。 | |
訪問入浴介護 | 自宅に簡易浴槽を持ち込み、入浴介助を行う。 | |
訪問リハビリテーション | 理学療法士や作業療法士等が訪問し、医師の指示書のもと、生活機能回復訓練を行う。 | |
居宅療法介護指導 | 通院するのが困難な患者に、医師、歯科医師、薬剤師・管理栄養士・歯科衛生士などが訪問し、療養の管理や指導をする。 | |
通所 | 通所介護 (デイサービス) | 事業所に通所し、食事や入浴、排泄などの介護を受けられる。生活機能訓練としてレクリエーションなども行われる。 |
通所リハビリテーション (デイケア) | 事業所に通所し、日常生活を送る上で必要な機能訓練を受ける。 | |
宿泊 | ショートステイ | 一時的に福祉系の施設に入所し、生活支援や、機能訓練等を受ける。 |
要介護者の意を酌んだ介護
在宅介護は、介護を要する方が住み慣れた自宅で安心して暮らすことができることや、施設介護と比べると経済的な負担が軽いというメリットがあります。
その一方で、ご家族の精神的・肉体的負担が大きくなりがちな点には注意が必要です。
長期的に介護を続けるためには、「レスパイトケア」といって介護をする家族が一時的に介護から離れて休息がとれる支援を受けることが大切となります。
介護についてはお住まいの自治体の「地域包括支援センター」等で相談することができます。
在宅で生活しながら利用できる「居宅サービス」について理解を深め、ご自分やご家族にとって最適な介護サービスを選択していきましょう。
参考:『令和2年における行方不明者の状況』警察庁生活安全局生活安全企画課
R02yukuefumeisha.pdf (npa.go.jp)