低栄養を改善しよう!食事介助の基本
作成日:2019年10月10日
食べることはヒトが暮らしていく上で大変重要なことです。
しかし高齢になるにしたがって、食べることに困る状況が増えてきます。
この場合の食べることに困るとは
・食べない
・食べたくても食べられない
の2つに分けられます。
病気などによって「食べない」方もいらっしゃれば、食べたくても苦しい思いをしたくないので「食べられない」という方もいらっしゃいます。
どちらもヒトが健康に暮らすために必要な栄養素を適切に摂取できない状態ですので、このようなまま暮らしを続けると
・骨
・筋肉
これらの量が減っていくことが予想されます。また、臓器などの機能も低下する可能性が高くなります。
さらに活動量が減っていくと、
・寝ていることが増える
・身体や精神の機能が低下する
というような、誰もが願っていない状態を招いてしまうこともあるでしょう。
このように食事は大変重要なことですので、今回お話します食事介助や低栄養の改善を参考にしていただきたいと思います。
目次
食事介助で知っておきたい嚥下と摂食
食事をスムーズに苦しくなく、楽しんでもらうためには適切な食事介助が必要です。
そして食事介助を正しく行うためには、ヒトが食べるときに行う行為を知っておくことが大切です。
嚥下と摂食とは
嚥下と摂食という言葉があります。食事介助について少しでも調べられた方なら、どこかで目にされているかもしれません。
この2つの行為は食事をスムーズに行うために、大変重要な役割を果たしています。
(1)摂食(せっしょく)
摂食とは、これから口に入れて食べようとしているものを認知し、自ら口へ入れようとする行動を言います。
若い方や健康な方はあまり気にしていない行動かもしれませんが、ヒトは無意識に何でも口に入れているのではなく、自分が見て(場合によっては匂いなども含めた感覚で)「食べ物だ、口に入れて食べよう」という意識が働かないとスムーズに食べることができないのです。
(2)嚥下(えんげ)
嚥下とは、口の中へ入れた食べ物を、安全なタイミングで食道へ送る行動です。
これは無意識に行われているため、若いときや健康なときに「嚥下」という運動を気にして食事をするヒトはほとんどいません。
しかし、次のところでお話しますが嚥下は大変複雑な動きを自動的にしているため、タイミングが合わないとスムーズに食事をすることができません。
場合によっては、命の危険や他の病気の原因にもなりえる可能性もあるため、食事介助を行う場合には必ず理解しておきたい運動です。
うまく飲み込めないこともある
喉には
・呼吸するための「気道」
・食べ物を運ぶための「食道」
この2つがあります。
そして、この2つが大変複雑な動きをするため、高齢者の方は食事で「むせる」ことが増えてしまいます。
どういう理由で「むせる」ことが増えるのかというと、口の中に入れた食べ物は、咀嚼された後、塊を作ります。
そして塊を喉の方へ移動する(飲み込む)と、気道と食道が交差する部分に「咽頭(いんとう)」があり、咽頭が無意識に反射活動を行うことで、気道側が蓋をされます。
そうすると食道だけが開いているので、食べ物の塊が食道を通り、そのまま内臓である「胃」へ到達します。
これが若い方や健康な方の流れです。いっぽう、高齢者の方の場合、食べ物の塊が咽頭へ差し掛かったとき、気道側の蓋が正常に行われない場合が出てきます。
そうすると気道が開いたままの状態で、口の中に入っている食べ物の塊や液体が流れ込み、本来なら食道へ流れるものが気道へ入り込みます(これを誤嚥と言います)。
こうなると大変苦しく「むせる」ことになり、食事が楽しいものでなくなってきます。
また、むせることで気道に入ったものを吐き出せれば良いのですが、体力や筋力の低下が進んでいると、うまく吐き出せないため気管に入り込んでしまいます。
そして気管に入り込んだ食べ物についていた雑菌が繁殖すると、肺炎を起こすこともあり、ヒトによっては命の危険を伴う可能性が出てきます。
口から食べるための条件
食事介助で大切なのは、摂食と嚥下をスムーズに行ってもらうことです。
そのためには、先ほどお話しました内容を思い出してください。
口から食べてもらうためには、摂食からスタートすることになります。
ということは、食事をされる方は必ず
「意識があること」
これが重要になってきます。
そこで食事介助を始めるときには、
・食事前の声かけ
・カラダに少し触れて意識を確認
ここから始めことで、食べようという気持ち、飲み込むときに起こりやすい誤嚥を低下させることができるでしょう。
どうして高齢になると嚥下障害が増えるのか
高齢になると、喉の部分で重要な役割を担っている「咽頭」の位置が変化することが指摘されています。
咽頭は幼児から成人、高齢者へと進むにしたがって、下に下がってくる傾向にあります。
咽頭が下がると、誤嚥しやすいカラダの構造になるため、気道に蓋をする行動のタイミングが悪くなり、飲み込むことが難しくなります。
また、筋肉量の低下も原因のひとつではないかと言われています。高齢になるに従い、誰でも筋肉量が低下します。筋肉量が低下する喉の部分の筋肉が簡単に疲労してしまうこともあり、咽頭で反応しても素早く気道側の蓋が出来ないということも起こります。
これは少しでも筋トレをされた方ならご理解いただけるかと思いますが、腕や脚を集中的に筋トレし、筋肉に疲れが溜まると全く動かすことができないタイミングが訪れます。
いくら筋肉量が多い方でも、疲労が溜まるとピクリとも動かないのです。
これと同じことが高齢者の喉周辺の筋肉に起こると、気道側の蓋は俊敏に動けませんし、疲れてしまっているのなら蓋は開いたままになってしまいます。
このような理由から、高齢者の方は誤嚥を引き起こしやすくなるようです。
うまく食べられない方へのケアとは
高齢者の方で、食べたいけれどうまく食べられない方には、食事のケアを考えていくことが大切です。
基本はお口のケアから
食事介助というと、食べ方などにフォーカスしてしまいがちですが、食べるという行動を考えると、最初にケアを考えなくてはいけないのが「お口」なのです。
お口のケアが出来ていないと、口の中へ食べ物が入ったときの感覚が鈍感になることもあります。また、舌や口の中の粘膜がうまく出ていないと、食べ物を塊にしにくいこともあります。
そして、お口の中を清潔に保つことで、唇や舌の動きもなめらかになり、食べ物が上手に咀嚼できるようになるでしょう。
当然ですが、健康なお口の中を維持することで、味覚や刺激にも敏感になりますから、食事が楽しくなり「食べる」ことへの意欲も高まってくるはずです。
さらに残っている自分の歯や、入れ歯による噛み合わせにも注意が必要です。噛み合わせが上手くいっていないと、咀嚼することが難しくなりますので、飲み込める大きさの塊にすることができません。無理して飲み込むと誤嚥の原因にもなりますし、おいしく食べられないので食事が「つらい」ものになる可能性もあります。
定期的に歯科医師へ診てもらっていただきたいところです。
食事介助の前に確認しよう
先ほども出てきましたが、食事介助の前には必ず「意識があるか」確認することが重要です。
目が覚めている状態でないと、食べるものが認識しづらいですし、口の中に食べ物を入れたとしても、上手く飲み込むことができません。
目が開いているのか、声かけしたら反応があるのかを確かめましょう。
また、高齢者の方の中には、食べている途中で眠ってしまうことや、意識が低下する方もいらっしゃいます。
最初は食べていたからと楽観視せず、食べ終えるまで意識があるのか見届けることも大切でしょう。
さらに次のポイントにも注意しておくと、体調の変化を見逃さずに済むこともあります。
・食事介助の前に体温測定
・食事介助の前に呼吸状態を確認
・食事介助の前にお口の中をチェック
ちょっとしたことですが、こういったことを続けると体調の変化に気づきやすくなります。
体温が高いなら、風邪かもしれません。発熱が感じられるのなら、いつもと同じ食事だと誤嚥を引き起こす可能性もあります。喉に炎症が起きているようなら、上手く気道を蓋できないかもしれません。
呼吸の乱れが感じられるのなら、肺炎の疑いも出てきます。お口の中が清潔でない場合、虫歯や歯周病が原因で食べにくくなっていることもあります。
食べやすいポイントを試してさがそう
食事介助の方法は、誰もが同じではありません。その人によって食べやすいポイントが違ってきます。
・食べやすい姿勢
・食べやすい向き
・食べやすい食器
・食べやすい温度やとろみ加減
また、体調によっても変化しますので、いつも同じと考えないことが大切です。
食べ方や飲み込み方、飲み込むまでの時間や「むせる」ことがあるか。そして食べることで疲れが出ているのかも注意しながら食事介助していただきたいと思います。
食事介助への基本の「き」
それでは次に食事介助の基本を紹介します。
状態をみきわめる
これが本当に大切です。
何度も出てきていますが、食事をする方の状態をみきわめることが重要です。
意識やカラダの動き、自分から食べたいのかどうか。
食べさせられることへの心の準備。
積極的に食べたいという気持ちが出てくることが目標です。
食事の環境を大切に
食事介助で忘れがちなのが環境です。
食事は「食べ物を口に入れて飲み込む」行動ですが、それだけではおいしく食べることができません。
食事をする環境にも配慮しておきたいところです。明るい部屋や壁に写真がある、音楽が流れているなど、気持ちがほぐれる環境作りを目指したいですね。
また、人によりますが、にぎやかすぎる場所では気が散ってしまって、うまく食事が出来ない方もいらっしゃいます。静かな空間でゆっくり食べることを好まれる方もいらっしゃいます。
そして出来るだけ、一人で食事をしないようにすることも意識しておきましょう。なかなか難しいことなのですが、可能であれば何人かで一緒に食べる環境があれば、食事も楽しく進むと思います。
介助の姿勢
介助される方の姿勢は元より、介助する人の姿勢にも気をつけておきましょう。
無理な姿勢で介助を続けると、介助者の体調を壊してしまうこともあります。腰痛や背中周辺の筋肉痛、肩こりなども起こりやすくなりますので、お互いに無理な姿勢での食事介助にならないことも大切です。
介助される方の姿勢には意識がいきますが、意外に介助する側の人のカラダへ負担が増えていることもあります。2~3日で食事介助が終わることはありません。いつまでも健康に続けるために、自分のカラダのことにも意識を向けておきましょう。
いよいよ実施「食事介助」
それでは食事介助の進め方を簡単にまとめておきますので、介助の参考になれば幸いです。
(1)意識がしっかりしているかチェック
(2)発熱がないことをチェック
(3)呼吸状態が正常かチェック
(4)お口の中が清潔かチェック
(5)今日の食事を見せながら説明
(6)食事しやすい姿勢をキープ
(7)介助者がリラックスできるポジションをキープ
(8)水分を少し飲んでもらい口の中を潤しましょう
(9)少しずつ誤嚥に注意しながら食事を楽しんでもらいます
(10)食事は長くても30分くらいにとどめましょう
(11)食後にはお口の中に食べ物が残っていないかチェック
(12)食後のケアを行います
最初は簡単ではないかもしれませんので、担当医や介護スタッフなどにアドバイスをもらいながら進めていただけると良いでしょう。
また、お口の中のチェックや、食後のケアで行う歯磨きなどは、歯科医や歯科衛生士に相談すると上手に磨ける方法や、磨くポイントを教えてもらえます。
低栄養を改善してフレイル予防
食事介助についてお話してきました。
最後に理解しておいていただきたいのが、食事介助は高齢者がなりやすい「低栄養」を改善する目的があることです。
「食べない」ことで低栄養状態が続くと、冒頭でもお話しましたように筋力や筋肉量が低下します。
そうすると活動量がグンと低下し、これまで自分で立ち上がって歩けていた人も、寝ている時間が増えてしまいます。
「疲れたなぁ~」という気持ちになりますので、これは仕方のないことなのですが、こういった「フレイル」状態が続くと、ちょっとした転倒や入院によって「寝たきり」になってしまうこともあります。
これは誰も望んでいない状態です。出来ればゆっくりでも自分で立ち上がって歩いて移動したいはずなんです。
このような状態にならないためにも「低栄養」を防ぐことが重要になりますので、栄養成分が含まれていて食べやすい食事を選んでもらうことを意識していただきたいのです。
例えば、日本介護食品協議会が制定した規格である「ユニバーサルデザインフード」に基づいた食品を選ばれる方法があります。
「ユニバーサルデザインフード」の選び方(区分表)
区分 | 容易にかめる | 歯ぐきでつぶせる | 舌でつぶせる | かまなくてよい | |
---|---|---|---|---|---|
かむ力の目安 | かたいものや大きいものはやや食べづらい | かたいものや大きいものは食べづらい | 細かくてやわらかければ食べられる | 固形物は小さくても食べづらい | |
飲み込む力の目安 | 普通に飲み込める | ものによっては飲み込みづらいことがある | 水やお茶が飲み込みづらいことがある | 水やお茶が飲み込みづらい | |
かたさの目安 | ごはん | ごはん~やわらかごはん | やわらかごはん~全がゆ | 全がゆ | ペーストがゆ |
さかな | 焼き魚 | 煮魚 | 魚のほぐし煮(とろみあんかけ) | 白身魚のうらごし | |
たまご | 厚焼き卵 | だし巻き卵 | スクランブルエッグ | やわらかい茶わん蒸し(具なし) |
※左右にスクロールします
出典:日本介護食品協議会
URL:https://www.udf.jp/outline/udf.html
また、毎日「栄養成分」や「食べやすさ」を考えて食事を作るのは大変です。そこで最近は介護や介助に適した「宅配弁当」があります。
私たち「まごころ弁当」でも、原材料からこだわり栄養バランスのとれた、食べやすい大きさや柔らかさを選んでいただける食事をお届けしています。今なら無料試食キャンペーン中ですので、お気軽にお試しいただけます。
週に2~3度、利用いただくだけでも献立を考える手間が減りますので、検討していただけると幸いです。
食事介助の基本まとめ
食事介助は大変重要なことです。高齢者の方はどうしても低栄養になりやすいため、食事には気を配ることが必要です。
食べない→低栄養→筋力低下→活力低下→活動量低下→食欲不振→寝ていることが増える→食べない
このようなサイクルに入り込まないようにしておきたいところです。
今回お話しました内容が、あなたの食事介助に役立ちましたら幸いです。