在宅介護の食事のポイントとは?宅配弁当や作り置きおかずの活用
作成日:2023年9月11日
在宅介護において、食事に介助が必要となるケースは多くあります。
しかし、忙しい日常生活の中で、食事にかかわる介助が、介護者にとって負担となっているという現状もあります。
高齢者の心身の状態を良好に保つためにも、毎日の食事は欠かせません。要介護者、介護者ともに毎日の食事を安全に楽しむために、そして介護者の負担を軽減するために、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
今回は在宅介護の食事についてのポイントと、宅配弁当の利用方法について紹介していきます。
目次
介護で食事が大事な理由
私たちにとって食事とはあまりにも当たり前なことであり、特別意識することは少ないかもしれません。
しかし食事は、生きるためだけではなく、人の心身の健康に様々な影響を与えています。
「食べること」について、健康なときには気づかなかったことも、介護をきっかけに考えたり発見したりすることもあります。
厚生労働省では高齢者にとっての「食べること」の意義として、次の3つを挙げています。
楽しみ、生きがいと社会参加
高齢者にとって食事は楽しみや生きがいとして重要です。
高齢者が自分で買い物や食事作りをすることは、食事にかかわる生活機能の回復だけではなく、社会参加への意欲を高めるために役立ちます。
生活の質の改善
高齢者の多くは、住み慣れた地域で尊厳をもって、その人らしく生活していきたいと望んでいます。
そのために、高齢者が自ら生活をするための能力を維持・向上できるように、また適切な生活に改善していくための支援をすることが、高齢者の健康の維持・増進や社会参加にもつながります。
食事は買い物、調理、後片付けといった一連の行為があり、またこれらの生活行為を通じて身体活動の維持や増大を図ることで、食欲も維持できると考えられます。
さらに食べることには、高齢者と家族や近隣の人々とのコミュニケーションも伴います。
規則的に食べることは生活のリズムを作り、心身機能のバランスを保ち、体調を整えることにも役立ちます。
低栄養状態の予防と生活機能の維持
高齢者は口腔や摂食嚥下機能の問題、疾患、さまざまなライフイベントによっても食欲低下や身体機能の低下などを招き、食事に伴う買い物や調理などが困難となったり、食事摂取量が低下して、食事から十分なエネルギーやタンパク質などの栄養素が摂れずに、低栄養状態に陥ることがあります。
高齢者の低栄養を予防・改善することは、内臓や筋肉のタンパク質量を維持し、身体機能や生活機能、免疫能の維持向上によって感染症を予防し、その結果として疾患の重症化や要介護状態を予防することで、生活の質を向上することに役立ちます。
在宅介護における食事の注意点
食べることは、目で見ることから始まっています。
そこにあるものが食べられるかどうかを目で確かめ、それまでの食経験から、その食べ物の味や食感、温度などを判断しています。
口に食べ物を入れてからも、さまざまな筋肉の協調運動と反射の連続によって、食べ物を噛み砕いて飲み込んでいます。
食べることは非常に複雑な運動であるにもかかわらず、健康な人はほとんど無意識に行っていて、どこをどのように使っているのか意識することは、ほとんどないのではないでしょうか。
この、「食べること」の一連の運動のどこかに不具合が生じると、今までと同じような食事が摂りにくくなることがあります。
食事が摂りにくくなる原因
高齢者ではさまざまな原因によって、食べ物がうまく噛めない、飲み込めないということが起こります。
このような状態を摂食嚥下障害と呼び、その原因は様々ですが、一般的には次のようなことが挙げられます。
・脳梗塞や脳出血などの後遺症
・加齢に伴う筋力低下
・認知症
・その他の疾患
原因によっては、適切な治療やリハビリによって徐々に改善することもありますが、加齢や疾患によって徐々に進行することもあります。
摂食嚥下障害の原因や心身機能の状態によって、必要な介助の内容や方法は異なります。
誤嚥の危険性
誤嚥とは、本来食道へ入るはずの唾液や飲食物が、気道へ入り込んでしまうことです。誤嚥は肺炎の原因となることがあり、誤嚥による肺炎を誤嚥性肺炎と呼びます。
のどの奥で食道と気道は隣り合っており、ゴックンと飲み込む瞬間だけ気道が塞がることで、飲食物などは食道へ流れ込みます。
しかし何らかの原因によって気道がうまく塞がらないと、飲食物などが気道へ入り込んでしまうことがあります。これが誤嚥です。
気道は肺へつながる酸素や二酸化炭素の通り道であり、飲食物などが入ってはいけない器官です。
飲食物が気道へ入りそうになっても、健康な人であれば、強くむせることで排出できたり、自身の免疫力によって肺炎を引き起こさずに済むこともありますが、加齢に伴う体力や免疫力、摂食嚥下機能の低下によって日常的に誤嚥があるような場合には、誤嚥性肺炎のリスクは高くなります。
また高齢者では、肺炎になっていても高熱などの症状が出ないこともあるため症状を見逃してしまい、気づいたときには入院が必要になるということもあります。
低栄養
低栄養は、食欲の低下や何らかの原因によって食事の摂取量が減少して、必要なエネルギーやタンパク質などの栄養が不足した状態を指します。
令和元年の国民健康・栄養調査では、65歳以上の高齢者のうち、男性12.4%、女性20.7%が低栄養の傾向があるという結果があります。
さらに要介護の高齢者においては、20~40%に低栄養の傾向があるといわれています。
意図せずに体重が減ってきた、元気がない、風邪をひきやすくなった、傷が治りにくい、などの症状がある場合には、食事から十分な栄養摂取ができていない可能性があります。
在宅介護で注目したい食事のポイント
日常の食事では、どのようなことに注目して介護をすればよいのでしょうか。
介護が必要な理由によっても注目するポイントは異なりますが、実際に食べる食事の内容だけではなく、食事中の様子や全身状態なども併せて、幅広く観察するようにしましょう。
食事中の様子
食事中の様子を観察してみましょう。症状によっても必要な対応が異なり、ちょっとした工夫で改善できることもあれば、受診が必要なこともあります。
(1)食べ物をよくこぼす:視力の変化、箸やスプーンなどをうまく使えていない、口唇をしっかりと閉鎖できていない、などの可能性があります。
口に食べ物を運ぶ途中で落としてしまう場合は、握力の低下や手指のしびれ、痛みなどによって食具が使いにくくなっている可能性があります。
箸をスプーンやフォークに変えたり、スプーンの大きさや重さなど、食具を変えることで対応できることもあります。
口からこぼれてしまう場合には、唇を閉じる力が低下している可能性があります。「パタカラ体操」など口腔体操を行うことで改善できることもあります。
(2)涎を垂らしていることが多い:唾液は1日に0.5~1.5ℓ分泌されており、健康な人は無意識に飲み込んでいます。
飲み込む機能に変化が生じていて、口腔内に溜まった唾液がこぼれだしている可能性があります。
また、唇を閉じる力が低下している可能性も考えられます。
(3)食べ物や薬が口の中に残ることがある:舌や頬の筋力低下や協調運動の不調などによって、食べ物や薬をのどの奥に送り込むことが難しくなっている可能性があります。
(4)食事中や食後に咳込むことがある:噛む・飲み込む機能に低下が生じ、誤嚥のリスクが高まっている可能性があります。
食事形態の調整によって軽減できることがあります。
(5)お茶や水を飲んでむせることがある:液体を飲み込む機能に問題が生じている可能性があります。
飲み物を入れるコップを変えたり、液体にとろみをつけることで軽減できることがあります。
ひとつひとつの症状にも個人差がありますが、こういった症状が日常的にある場合には、かかりつけ医に相談してみましょう。
具体的な食べやすい食事については、管理栄養士に相談してみましょう。
h3 タンパク質の量
加齢に伴う歯の欠損や義歯の不具合、噛む力の低下、唾液の分泌量減少などによって、高齢者は肉や魚などタンパク質の供給源となる食品が食べにくくなっていることがあります。
筋肉量を維持するためには、1日に少なくとも体重あたり1gのタンパク質量を食事から摂ることが必要と考えられています。
体重60㎏の人は、1日に60gのタンパク質が必要ということです。
タンパク質60gの目安は、肉や魚の種類によっても異なりますが、毎食ごはん1膳とおかずに肉か魚を60~70g程度に加え、毎日卵1個、牛乳コップ1杯が目安です。
筋肉量や筋力の低下は転倒などのケガにもつながるので、筋肉を作るために必要となるタンパク質は、食べやすい食材を選んだり、調理方法を工夫してしっかりと摂りましょう。
h3 口腔内の状態
加齢に伴って細かい手指の運動が難しくなっていることがあり、しっかりと歯みがきや入れ歯の清掃ができていないことがあります。
また唾液の分泌量の減少によって口腔内が乾燥し、有害な口腔内細菌が増殖しやすいこともあります。
入れ歯の不具合や歯ぐきの腫れ、痛みの有無など、本人からの訴えが無くても、家族や身近な人が定期的に確認してみることをおすすめします。
また定期的に歯科受診をして、口腔内のチェックと歯科衛生士の専門的なクリーニングを受けるようにしましょう。
水分摂取量
高齢者はもともと体内の水分量が少なく、脱水症を引き起こしやすいと考えられます。
水分摂取が十分でないと、便秘や血圧低下、食欲減退、疲労感などの症状を引き起こすこともあるため、夏季はもちろん、1年を通してこまめな水分補給を心がけましょう。
しかし高齢者の中にはトイレが近くなることを嫌って、積極的に水分を摂らなかったり、飲水時にむせ込むことが増えると、その苦しさから水分摂取を拒む人もいます。
水分の摂取量が著しく減少すると、脱水症や熱中症の他、脳梗塞や心筋梗塞などにつながる危険性もあるため、周囲の人がこまめに水分補給を勧めるようにしましょう。
水分摂取は必ずしも飲み物ではなくても、果物やゼリーなどから摂ることもできます。
排便の状況
食事や水分の摂取量と排便は相互に影響します。食事の量が足りないと便の材料が少なくなりますし、水分摂取が不足していると、便が硬くなることがあります。
また便秘によって食欲不振や、腹痛、吐き気などの症状を引き起こすこともあります。
食べた量だけに注目するのではなく、便秘や排便に困難や不快感などがないか確認しましょう。
薬の副作用として便秘になりやすいこともあります。日常的に排便に問題がある場合は、かかりつけの医師に相談しましょう。
負担軽減に役立つ宅配弁当と作り置きおかず
食事を全て一から作るのは、料理が好きな人にとってもボリュームのある家事といえます。
無理なく在宅介護を続けるためにも、食事にかかわる手間はできるだけ軽減できることが理想的です。
いつでも温めるだけで食べられたり、誰でもすぐに食事の準備ができるようにしておくことで、気持ちにも余裕が持てるようになります。
作り置きおかずの特徴
在宅介護をしていなくても、作り置きのおかずは忙しいときや、あと1品欲しいときなどにとても便利です。
家庭でおかずを作り置きする場合には食中毒防止の観点から、いくつかの注意が必要です。
・保存する容器は清潔なものを使用する。
・しっかりと加熱し、粗熱をとってから冷蔵庫に入れる。
・そのままテーブルに出すのではなく、清潔な箸やスプーンでお皿に取り分けて食べる。
・できるだけ早く食べきる。
適切に保存しても徐々に劣化は進みます。これらのことに気をつけながら、何品かの作り置きをしておくと、日常の食事の手間を軽減することができます。
好きなお惣菜の作り置き
好きなお惣菜をいくつか作り置きしておくだけで、食事の負担は大きく軽減できます。
煮物は、大きめでしっかりとふたのできる保存容器に入れて冷蔵庫で保存しましょう。
食材が煮汁に浸る状態にしておくと空気に触れず日持ちがよくなる可能性がありますが、保存している間に調味料がしみ込んで味が濃くなることがあるため、味付けに気をつけましょう。
炒め物は1食分ずつラップに包み、さらにチャック袋などに入れて冷凍しておくことができます。
食べるときには電子レンジでしっかりと温めて食べてください。ひじきの煮物や切り干し大根の煮物、五目豆などもしっかりと加熱して水分を飛ばしてやわらかく煮ておくと、冷蔵保存も冷凍保存も可能です。
下味をつけた状態で凍
肉や魚は、下味をつけた状態で冷凍しておくと、加熱調理の時間や味付けを省略することができ、食事の準備を軽減することができます。
さらに下味に生姜や塩こうじなどを使うと、肉や魚がやわらかくなります。
肉や切り身の魚を下味の材料と一緒に冷凍用のチャック袋などに入れて冷凍し、使うときは解凍してから加熱調理しましょう。
他の食材を加えることで、バリエーションが広がります。
市販の介護食を利用
必ずしも手作りしたものを作り置きするだけではなく、市販品も上手に利用しましょう。
近年は、ドラッグストなどにも介護食の売り場が広がっています。また、インターネットを利用すると、さらに多様な介護食を購入することができます。
市販の介護食もレトルトパックやカップ容器のもの、お弁当タイプの物、デザート類など、いろいろな種類があります。
保存状態も常温で保存できてそのまま食べられるものや、冷凍品などもあるため、家庭の状態に合わせたものを選ぶことができます。
市販品の介護食を数種類常備しておくことで、いつでも短時間で食事の用意をすることができ、食べるときに選ぶ楽しみも生まれます。
また非常災害時などの備蓄食としても利用することができます。安全に市販の介護食を楽しんでもらうためには、食べる人に合った食事の形態であることが大切です。
噛む・飲み込む機能に合わせた食事の形態を見つけましょう。食事形態の基準のひとつに「ユニバーサルデザインフード」の区分表があります。
市販の介護食の中にも、ユニバーサルデザインフードの区分が表示されている物があるので、参考にしましょう。
「ユニバーサルデザインフード」の選び方(区分表)
区分 | 容易にかめる | 歯ぐきでつぶせる | 舌でつぶせる | かまなくてよい | |
かむ力の目安 | かたいものや大きいものはやや食べづらい | かたいものや大きいものは食べづらい | 細かくてやわらかければ食べられる | 固形物は小さくても食べづらい | |
飲み込む力の目安 | 普通に飲み込める | ものによっては飲み込みづらいことがある | 水やお茶が飲み込みづらいことがある | 水やお茶が飲み込みづらい | |
かたさの目安 | ごはん | ごはん~やわらかごはん | やわらかごはん~全がゆ | 全がゆ | ペーストがゆ |
さかな | 焼き魚 | 煮魚 | 魚のほぐし煮(とろみあんかけ) | 白身魚のうらごし | |
たまご | 厚焼き卵 | だし巻き卵 | スクランブルエッグ | やわらかい茶わん蒸し(具なし) |
出典:日本介護食品協議会
URL:https://www.udf.jp/outline/udf.html
宅配弁当の特徴
近年、宅配弁当の会社は増加しています。高齢者に対応した宅配弁当も各社が工夫を凝らしていて、味も内容も進化しています。
家庭での作り置きとは異なるメリットもあり、宅配弁当、では、次のような介護食に必要なポイントに配慮されています。
栄養バランスが整っている
宅配弁当の多くは管理栄養士が献立作成にかかわっており、栄養バランスに配慮がされています。
さらにカロリーや塩分、タンパク質などの調整がされているものもあるので、慢性疾患の食事療法が必要な人にも対応が可能です。
かかりつけの医師の指示に合った内容の弁当を選ぶことで、安心して1食分を食べきることができます。
食事形態に配慮されている
高齢者向けの宅配弁当では、やわらかく調理されたものが多いだけではなく、お粥やひと口大にカットしたもの、舌でつぶせる状態のものなど、何段階かの食事形態に対応したものもあります。
宅配弁当の会社では、電話やチャットなどで管理栄養士に相談できることもあるため、噛む・飲み込む機能に低下が感じられる場合には、相談することもできます。
味以外の「おいしさ」
食事には舌で感じる味以外に、見た目、香り、味、温度なども「おいしい」と感じる大切な要素です。
多くの宅配弁当会社では、味付けはもちろん、食材へのこだわりや季節感、彩りなどにも工夫を凝らし、五感で楽しめるようにさまざまな配慮がされています。
メニューのバリエーションも豊富で、飽きずに食べることができますし、味付けや食材の組み合わせなど、家庭の食事の参考にできることもあるかもしれません。
私たち「まごころ弁当」では、原材料からこだわり栄養バランスを考えた宅配弁当をご用意いたしております。今なら無料試食キャンペーン中ですので、お気軽に試していただくことができます。
助成が受けられる
市町村によっては、高齢者向けの宅配弁当に助成金などが受けられることがあります。
助成の対象となる条件や詳細は市町村によって異なるため、担当のケアマネジャーや市町村の担当に問い合わせてみましょう。
在宅介護では宅配弁当や作り置きおかずを効果的に活用しよう
在宅介護において、食事は高齢者の心身の健康を維持するために大切な要素のひとつです。
さまざまな原因で食事に介助が必要になると、体の健康だけではなく、日常生活にも影響を及ぼすことがあります。
しかし適切な対応によって改善できることもあるので、食事の様子に変化が感じられた場合は、かかりつけの医師や管理栄養士に相談してみましょう。
今回の内容を参考にしていただき、家庭での作り置きと宅配弁当を上手に使い分け、介護の負担を少しでも軽減しながら、在宅介護を続けていただきたいと思います。