高齢者のおなかの調子を整えるには
作成日:2020年6月10日
高齢の方は、日常の活動量が低下したり老化による体の機能が低下することによって、消化管の機能も衰えてきます。また、免疫力が下がるのでさまざまなウイルスや細菌にかかりやすくなり、お腹の調子が悪くなることが増えます。今回は便秘や下痢になるとどのような害があるのか、またおなかの調子を整えるためには日常でどのような工夫が必要であるのかについて詳しく説明していきます。
目次
便秘の種類と症状
便秘とは、通常毎日ある排便が数日に1回など不規則になったり、それに伴い便の水分が少なくなり固くなって排便が困難となったり便が残っている感じがあったりすることを言います。便秘には以下の3種類があります。
弛緩性便秘
大腸の蠕動運動(腸が動いて便を肛門側に送り出す動き)が低下することで、便が大腸にとどまりやすくなる状態の便秘を言います。腹部の筋力低下や消化機能の低下、食物繊維の不足などが原因で起こります。
直腸性便秘
便意を我慢してしまう習慣などにより、便が肛門付近までおりてきていても便意を感じる感覚が鈍くなり排便反射がおこりにくくなっておこる便秘のことです。
けいれん性便秘
精神的ストレスなどによって大腸の動きが強くなりすぎて、便の移動がスムーズに行えない便秘のことを言います。排便時に強い腹痛を感じることがあります。
高齢者が便秘になりやすい理由
高齢者に多いのは、大腸の動きが弱くなり蠕動運動が低下しておこる弛緩性便秘です。高齢の方は、日常生活での活動量が低下したり、食事や水分の摂取量が低下したりして大腸の動きが弱くなりやすいです。さらに腹筋の筋力が低下しているためいきむ力も弱く、しっかりと排便することができません。
また、直腸(肛門のすぐ近くにある大腸の部位)の知覚が低下することで、直腸に便がおりてきていても便意を感じずに直腸に便がたまってしまいます。
他にも、年齢を重ねるにつれて持病をもった方が多くなり、何らかの服薬をしている場合その薬の副作用で便秘になることがあります。特にパーキンソン病やうつ病の薬の一種や降圧剤(血圧を下げる薬)の一種には副作用で便秘になりやすいという特徴があります。
それ以外には、消化器系の病気を患っている可能性もあります。特に生活習慣が変わっていない場合や運動も適切に行っている場合でも長期間便秘が続く場合には、大腸に何らかの疾患が潜んでいる可能性があります。
大腸がんや炎症性腸疾患などによって腸が狭くなっていて便の通過障害が起こっていたり、大腸の動きが悪くなっていることもありますので、便秘であるのに体重が減ってきたり、血便がみられる場合、貧血の症状(動悸や息切れ、ふらつきなど)がある場合などには医療機関を受診するようにしましょう。
便秘を予防するために
食物繊維を含む栄養バランスのとれた食事を心がける
食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。水溶性食物繊維は、野菜や果物、海藻、こんにゃくなどに多く含まれており、便自体を柔らかくしてくれる働きがあります。不溶性食物繊維は、穀類や豆類、ごぼうなどの根菜類などに多く含まれており、腸の動きを活発にして便の排出を助ける働きがあります。
善玉菌となる乳酸菌やビフィズス菌を含む食品も腸内環境を整え腸の調子を整えてくれるので積極的に摂取するようにしましょう。ヨーグルトやみそ、納豆などの発酵食品に多く含まれており、最近ではこのような菌を多く含んだ健康飲料も市販されています。
食物繊維だけでなく、栄養バランスのとれた食事をしっかりととることで、身体を動かす活力が生まれたり内臓の動きも活発になります。食事摂取量が不十分ですと、胃腸の動きが弱まり食欲低下や便秘が起こり、体力が落ちることで活動量が減り食欲が低下するという悪循環が生まれます。食事をしっかりとること、日中の活動量を増やすことが健康な日常を送る上で非常に大切となります。
また、いくら食事をとっても水分が不足していると便が固くなりスムーズな排便が困難となります。食事を摂取すると同時に水分も意識して飲んで便秘を予防しましょう。
食物繊維を多く含む食材には、しっかり噛んで細かくしないと飲み込みにくい食品が多いです。噛む力や飲み込む力が弱くなっている方には、こまかく刻んだり、ペースト状にしたり、とろみをつけたりするなどの食事の形態を工夫が必要になります。
規則正しい生活を送る
排便は習慣づけが大切です。毎日同じ時間に朝ご飯を食べることは内臓を目覚めさせ機能を活発化するのに非常に重要です。またなるべく同じ時間にトイレへ座る習慣もつけましょう。便意がなくても同じ時間にトイレへ座ることで排便反射がおこることもありますし、トイレへ移動するという立って歩いて座るという動作で多くの筋肉を使い活動量を増やすことができます。
その他にも、可能であれば散歩などの適度な運動をして日中は活動量を増やし、夜は同じ時間に寝てしっかりと睡眠時間を確保するなどの規則正しい生活をすることでスムーズな排便を促すことができます。
排便姿勢を正しくする
排便しやすいのは、和式のトイレでしゃがんだ姿勢なのですが、高齢の方はバランスを崩しやすく転倒の危険性があります。洋式のトイレで前かがみになるといきみやすく便が外へ排出されやすくなります。
お腹をマッサージする
内臓が反転している先天性の病気の人以外は、基本的に腸は右下から時計回りにぐるりと通っています。お腹を「の」の字を描くようにマッサージすることで腸の蠕動を促すことができます。お腹を少し温めながらマッサージをすることでより効果を得ることができます。
下痢の原因と高齢者がなる理由
下痢とは、便の水分量が増して泥状便~水様便となった状態のことを言います。発症して1週間程度でおさまるものを急性下痢といい、原因としては、ノロウイルスなどの感染性腸炎や暴飲暴食などの生活習慣の乱れが考えられます。発症後1か月以上続くものを慢性下痢といい、腸の疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がんなど)や腸の機能低下によるものなどが考えられます。
他にも腸に異常がないのに腸の動きに異常が出る過敏性腸症候群も原因として挙げられます。また、便秘に悩まされた方が下剤を飲んで下剤が効きすぎて下痢になってしまうこともよくあります。
口から食べた食べ物は食道や胃を経て、小腸大腸へと到達します。この小腸や大腸で消化物の水分を吸収し便が形成されるのですが、下痢の場合は、腸粘膜からの水分分泌が多くなって便に過剰な水分が含まれてしまったり、消化物が腸管を速く通過してしまうことで水分の吸収が適切に行われないことで起こります。
高齢の方は、身体に貯めておける水分量が少なく下痢になるとすぐに脱水症になってしまいます。また、高齢に伴い食事摂取量が低下していて栄養不足である方が多く、下痢になることで栄養の吸収が悪くなりさらに栄養低下が引き起こされます。下痢になることで電解質が多く体外へ排出されてしまうので、体の中の電解質バランスも崩れます。脱水予防と同時に電解質も補充する必要があります。
下痢を予防するために
高齢の方は、免疫力が低下しているため腸炎の原因になる菌やウイルスに感染しやすくなります。食事の前や外出から帰ったときには、必ず手洗いうがいをしましょう。そして、食事は十分に加熱してあるものを摂取すること、牡蠣などの腸炎のリスクが高い貝類などは極力摂取を避けること、お肉やお魚などを調理した包丁やまな板を使用して野菜類の処理をしないことなど、食中毒予防を心がけましょう。
下痢になってしまったときには
高齢者が下痢になってしまったときは、脱水症になる可能性があり、重度の場合には命に危険がおよびます。
水分を摂取する
下痢が長期間続く場合には、水分とナトリウムやカリウムなどの電解質も体の外へ排出されてしまうため、脱水症を予防する必要があります。水やお茶だけではなく、電解質を補充する必要がありますので、経口補水液やスープなど摂取しやすいもので水分と電解質を補いましょう。スポーツドリンクにも電解質が含まれますが、同時に糖分も大量に摂取してしまいますので、特に糖尿病などの持病がある方はスポーツドリンクの飲みすぎには注意が必要です。
また、飲み物を摂取するときには、冷蔵庫で冷やすのではなくなるべく常温のものを用意しましょう。冷たいものを一度にたくさん飲むと胃腸への負担が大きくなりさらに下痢を悪化させる可能性があります。
食べやすい食事を摂取する
下痢の間は、消化のよい食事を心がけるようにしましょう。脂質が高い食事(脂身が多いお肉など)や食物繊維が豊富な食品、刺激物などは胃腸に負担がかかるので控えるようにしましょう。乳酸菌やビフィズス菌などの整腸作用のある微生物を含む食品(ヨーグルトやチーズ、納豆、みそなど)はお腹の調子を整えて下痢を軽減すると言われていますので、無理のない程度に摂取するようにしましょう。
皮膚をケアする
下痢はアルカリ性であるため、下痢が頻回におこると肛門の周りがただれたり炎症を起こしたりします。肛門の周りに炎症が起こり、それが膿瘍を形成することで敗血症(菌が全身に回って重篤な状態になること)になる可能性もあるため、肛門の周囲は清潔に保つことが大切です。
トイレの後には温水洗浄を利用したりお湯で優しく洗い流すなどして、ティッシュで強くこすりすぎずきれいに保つことが重要です。そして、痛みがつらいときや肛門の周りがただれてしまった場合には、医療機関を受診して軟膏などのお薬を出してもらってなるべく早く処置をするようにしましょう。
市販の便秘薬は使うべき?
市販の便秘薬や整腸剤は長期間飲み続けると腸の機能を低下させてしまう恐れがあります。また、長引く便秘や下痢には思わぬ病気が隠れている場合がありますので、自己判断で市販の薬を飲むのではなく、お腹の不調が長く続く場合には医療機関を受診するようにしましょう。
お腹の調子を整えるためには
高齢の方がお腹の調子を崩すと、時として命に関わってしまうことがあります。命に関わらないとしても、長期間続く便秘や下痢は不快なもので、体力も奪われますし身体を動かすのがつらくなって日中の活動量が減ってしまうことにつながります。
お腹の調子を整えるためには、日常的に適度な運動をして体力を維持すること、毎日決まった時間に栄養バランスのとれた食事を食べること、睡眠を十分にとって身体を休めることが基本になります。特に栄養バランスの良い食事をしっかりととることは、健康な生活を送る上で欠かすことはできません。
食事摂取量が減って低栄養状態になれば、感染症にもかかりやすくなりますし、体の様々な機能が低下します。活気も失ってしまい日中に活動しようという気持ちにもなりません。そして、日中寝たきりのような状態になることでさらに筋力はおちますし、お腹もすかないので食事を食べないという悪循環が発生します。
高齢になると、バランスのよい献立の食事を作るのが難しくなったり、噛む力が弱まることで使う食材が偏ったり食事の摂取量が減ってしまったりします。まごころ弁当では、毎日日替わりでバランスのとれた食事を提供することができますし、その方の噛む力や飲み込む力に合わせた形態の食事を準備することができます。それ以外にも、持病などが原因でカロリーや塩分、たんぱく質などを制限する必要がある方用に、制限食を提供することができます。
このように外部のサービスを活用することで、栄養バランスの食事を規則正しく手間なく摂取することで、高齢者の方の健康を維持することができます。お腹の調子が悪くなってから対処するのではなく、調子を悪くしない生活を心がけることが大切です。
日々の食事で予防しよう
高齢者の方は、加齢に伴う胃腸の機能低下や知覚の低下、生活習慣の乱れ、免疫力低下による感染症によって便秘や下痢になりやすいです。これらの症状によって、高齢の方の体力は簡単に奪われ、活気ある日常生活を送るのが困難になってしまいます。これらの便秘や下痢を予防するために重要なのは日々の食事です。
自分で食事を準備することが難しくなってきた方や、食材の調達が難しい方、同居されているご家族で食事の形態をかえなければ食事摂取が難しい方がいらっしゃる場合には、ぜひ宅配のまごころ弁当を利用してみることをおすすめします。