教育入院で糖尿病の正しい知識を身につけよう
作成日:2020年12月4日
近年、飽食の時代で、日本では食文化の欧米化により生活習慣病に罹患する人が増加しています。生活習慣病の中でも、糖尿病は、血糖値のコントロールがよくない状態が続くと、失明をしてしまったり、手足先が壊死してしまったり、腎機能が悪くなって透析が必要になってしまったりと、日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。
そのような状態にならないために、血糖値のコントロールが悪い方や糖尿病の知識が不十分な方には、教育入院の必要がある場合があります。今回は、糖尿病の教育入院について詳しく説明していきます。
糖尿病とは
私たちの身体は、食事を食べることによってエネルギーを確保し生きています。食事を食べると、血液中の糖の値が上昇します。すると、健康な人は、上がった血糖値をもとに戻すために、血糖値を下げるために必要なインスリンという物質を身体の中の膵臓から分泌します。膵臓から出されたインスリンによって、私たちの身体は食事を食べた後でも、血糖値が上がりすぎずに一定に保たれるようにできています。
しかし、何らかの理由によって、このインスリンの分泌が少なくなってしまったり、インスリンが効かなくなってしまうことで、血糖値のコントロールができなくなってしまいます。そして、常に血糖値が高い状態となるのが糖尿病と呼ばれる病気で、糖尿病にはⅠ型とⅡ型があります。
Ⅰ型は、膵臓の細胞が壊されることでおこります。原因不明であったり、自己免疫性(自分の免疫によって膵臓の細胞を壊してしまうこと)が原因であるとされています。しかし、Ⅱ型糖尿病は暴飲暴食や不規則な生活、運動不足などの生活習慣によって引き起こされます。日本の糖尿病患者さんのほとんどはⅡ型糖尿病と言われています。
糖尿病は、初期ではあまり症状がなく健康診断などで血糖値の異常を指摘されて発覚することが多いです。悪化してくると、喉が異常に乾いたり、トイレが近くなったり、体重が減るなどの症状が出現します。
さらに症状が悪化すると、糖尿病には、三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)があり、目が見えなくなったり、透析が必要となったり、手足がしびれて最悪の場合壊死して切断せざるを得なくなったりします。このような状態にならないために、適切に治療を行って血糖値のコントロールをする必要があります。
糖尿病の治療
糖尿病の治療には、大きくわけて3つの種類があります。Ⅰ型の糖尿病の場合には、インスリンが足りていないためインスリン注射を行ってインスリンを補う治療を行います。Ⅱ型の糖尿病の場合には、まずは食事療法、運動療法を行いそれでも改善がみられない場合には薬物療法を行っていきます。
1) 食事療法
糖尿病の治療の基本は、まずは食事療法です。1日に必要なエネルギー量を設定してもらい、炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素を中心に、ビタミンやミネラルなどさまざまな栄養素をバランスよく摂取していくことを目標にします。また、食事時間をきちんと決めて守ることや、だらだらと間食をしないことなど、さまざまな制限が必要になります。
2) 運動療法
食事を制限するだけでは、糖尿病を改善することはできません。食事だけを厳しく制限してしまうと、ストレスが溜まってしまい、逆にタガが外れて一気に大量に食べてしまうこともあります。そのため、ストレス発散もかねて、適切な運動を毎日継続して行うことも大切です。ウォーキングや水泳、軽いジョギングなど、軽い有酸素運動をできれば毎日行いましょう。
特に、体重が適正体重を大幅に超えてしまっているような方は、いきなり運動をすると足腰に大きな負担がかかってしまうため、プールの中でウォーキングをしたり泳いだりするのがおすすめです。水中だと、足腰に体重がかからずに負担を減らすことができます。
3) 薬物療法
食事療法と運動療法を2~3か月続けても、血糖値の改善が見られない場合には、血糖降下剤を内服したり、インスリン注射を打って血糖値を下げる薬物療法を行います。薬物療法が始まったからと言って、食事療法と運動療法を中断してよいというわけではなく、あくまで、食事療法と運動療法がメインで補助的に薬物を使用するというイメージで治療が行われます。
教育入院について
糖尿病は、前述したように食事療法や運動療法をしつつ、それでも血糖値のコントロールが悪い場合には薬物療法を行っていきます。Ⅱ型糖尿病の原因である生活習慣というものは、なかなか簡単に変えられるものではありません。しかし、それでも変えていかなければ、将来的に重篤な合併症を引き起こいてしまったり、血糖のコントロールが全くできていない場合には、命の危険がある場合もあります。
そのため、糖尿病が発覚した際に、糖尿病に対する知識が不十分な方や、なかなか生活習慣の改善をすることができない方、血糖値のコントロールが悪い方を対象として、教育入院をすることがあります。
教育入院の目標としては、糖尿病に対する正しい知識を身につけることや、食事療法や運動療法について理解すること、薬物療法が必要な方には、血糖降下剤やインスリンの使用方法や効果効能などについての知識を身につけることなどが挙げられます。
それと同時に、病院食を食べていただくことになるので、食事で摂取カロリーを制限した場合、どの程度の血糖改善が認められるのかを評価し、薬物療法を取り入れるかどうかの検討も行います。
薬物療法を取り入れることになった場合には、その人にとってどの薬剤が適切であるのかや、薬剤の量などを血糖値の変動をみながら決定していきます。また、合併症の有無についても検査を行っていきます。そして、入院中に血糖値のコントロールが良好となって、糖尿病の知識も得ることができれば退院となります。
教育入院中の指導内容
教育入院中は、さまざまな職種の人から糖尿病に関する知識についての情報提供が行われます。
1) 看護師
看護師は、患者さんに1番身近な存在であるため、糖尿病に関する基本的な知識に加えて、糖尿病患者さんの日常生活を聴取して、どの部分を改善していく必要があるのかを指導していきます。
糖尿病に関する基本的な知識とは、糖尿病の原因や症状、治療方法についてなどから、合併症についてや、低血糖、シックデイについてまでさまざまなことを学んでいきます。
高血糖で問題になっているのに低血糖を学ぶのはなぜかと思う人もいるかもしれませんが、薬物療法を行っている糖尿病患者さんにとって、低血糖は非常に緊急的な状態の1つです。
血糖降下剤やインスリン注射を行っているのに、食事を摂取する量が少なすぎたり、薬剤を摂取した後に時間をおいて食事を摂取したり、空腹時に激しい運動をしすぎたりすることによって、低血糖が起こります。
低血糖は、異常な空腹感や冷や汗、手の震えなどから始まり、最悪の場合意識を失って命が危険な状態となることもあります。そのため、糖尿病の方は低血糖についても学んで、対処法をしっかり理解しておく必要があります。特に薬物療法を行っている人は、かならずブドウ糖などの糖分を常に持ち歩いておきましょう。
シックデイとは、糖尿病の方が感染症などによって、食欲が失われてしまったり、嘔吐や下痢などの消化管症状がある場合などに血糖のコントロールが悪くなる日のことを表します。シックデイの時には、血糖のコントロールが悪くなって、高血糖に陥ることが多くあり、脱水やケトアシドーシス(高血糖の状態で、さらに脂肪をエネルギーにしようとしてケトン体という物質が過剰に分泌されていること)から意識障害が出現し危険な状態となることもあります。
さらに、高血糖の状態だと、抵抗力が落ちて病気が治りにくかったり悪化してしまう可能性もあります。シックデイの場合には、かかりつけの医療機関を受診し、そもそもの感染症の治療と同時に、薬物療法の使用量なども相談するようにしましょう。決して自己判断で、薬物の摂取量を変更しないことが大切です。
このように看護師からは、糖尿病に関する知識や日常生活での注意点についての指導を受けます。
2) 管理栄養士
管理栄養士さんからは、栄養指導をうけます。1日に必要な摂取カロリーを計算してもらって、その摂取カロリーを守るためにはどのような食事をしたらよいのかを具体的に指導してもらいます。他にも栄養全般についての知識を得たり、細かなカロリー計算が難しいような方には、通常の食事に少しでも工夫をすることによって摂取カロリーを抑える方法についての指導が入ります。
3) 薬剤師
薬剤師さんからは、血糖降下剤やインスリンなどの種類や、作用・副作用、作用時間などの注意点について詳しく説明があります。特に、一部の血糖降下剤やインスリンに関しては、摂取してすぐに作用して血糖を下げる効果があるものもあるので、薬剤によって作用時間が違うことをきちんと理解しておかないと低血糖のリスクなどが上がってしまい危険です。
使用している薬剤によって、どのタイミングで食事を摂取しなければならないのかが決まっているため、薬剤についての理解を深めることは、退院後の安全な糖尿病治療に対して必要不可欠です。
また、退院後にインスリンを自己注射する場合には、インスリンの注射方法や自己血糖測定の方法などの指導があります。
4) 理学療法士
理学療法士さんからは、退院後の運動療法についての指導があります。体重やこれまでの運動習慣などから、その人にあった適切な運動方法を見つけていきます。糖尿病に関する運動療法は、一度に激しく身体を動かすよりも、軽くても毎日継続して運動習慣を身に着けることが大切です。ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を日常的に行うことを心がけましょう。
行動を変えていくためには
糖尿病と診断された方は、もれなく日常生活を改善していかなければなりません。行動を変えるためには、まず病気であるという認識をしっかりとする必要があります。そして、自らの問題として興味や関心を持ち、学んで少しでも改善しようという意欲が必要になります。
家で1人で糖尿病について勉強しても、知識が偏ったり誤った知識を得てしまうこともあり得ます。また、曖昧な知識ではモチベーションが持続せずに食事療法や運動療法を途中で中断してしまう可能性もあります。そのため、糖尿病の教育入院を実施して、糖尿病に関する正しい知識を身につけつつ、前向きに治療に取り組んでいけるように、看護師をはじめとしたさまざまな医療スタッフが支えていきます。
まずは、意識を変える、病気を認識するところから始めて、急にすべてを完璧に変えることは難しいので、最低限続けられるラインを患者さんと一緒に見つけていきます。
糖尿病の教育入院 まとめ
糖尿病は、血糖値が高い状態が続いてしまう病気のことで、進行すると網膜症や神経障害、腎障害などの深刻な合併症を発症してしまいます。そのため、糖尿病と診断された人は食事療法や運動療法を基軸として薬物療法を行っていきます。
このような治療を導入する際に、正しい知識を身につけさせたり、血糖のコントロールを適切に行うために糖尿病の教育入院を実施することがあります。糖尿病の教育入院では、看護師をはじめとして栄養士や薬剤師など様々な職種の医療従事者が、それぞれの担当分野について詳しく教育を行います。
すべてにおいて、理解をして行動を変えられるのであればよいのですが、なかなか生活習慣をある日突然完全に変えるということはとても難しいので、まずは実施可能な目標をたてて少しずつ日常を変えていくようにします。
糖尿病の治療の中でも特に重要であると言えるのが食事療法です。糖尿病の教育入院中も栄養士さんから食事についての指導やアドバイスがあります。しかし、病院食ではカロリーが完全に計算されていたため、血糖値のコントロールが良好だったけれど、退院したとたんに摂取カロリーを守ることができずに血糖値のコントロールが不良になってしまう人が多くいます。
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