拘縮|寝たきりによっておこる障害
作成日:2020年12月4日
近年、日本は平均寿命が延びて超高齢化社会となりました。すると、必然的に何らかの介護が必要になる人も増えてきています。日常生活動作の介助が必要となり、徐々に介護の必要度が上がり、最終的には寝たきりの状態になってしまう人もいます。寝たきりの状態になると、自分で身体を積極的に動かすことができないため、身体にさまざまな弊害がおこります。その中には拘縮というものがあります。
今回は、寝たきりでおこる拘縮について詳しく説明していきます。
目次
拘縮とはどんな現象?
拘縮とは、寝たきりなどさまざまな原因によって、皮膚や筋肉、関節などの動きが制限され、動かない状態が続くことによって、関節が固まって動かせる領域が制限されることをいいます。とくに寝たきりによっておこる拘縮を廃用性拘縮といいます。
本来であれば、朝起き上がって、顔を洗ったり、ご飯を食べたり、トイレへ行ったり、お風呂に入ったりなどの基本的な生活動作を繰り返すことで、私たちは常に関節が動いて筋肉が使われています。これによって、関節の動く領域は保たれています。しかし、さまざまな理由によって、寝たきりの状態やベッドで寝ている時間が増えることによって、徐々に廃用性の拘縮が強くなっていってしまいます。
拘縮の種類について
拘縮には5つの種類があると言われています。
1) 筋性拘縮
病気やケガなどで寝たきりや安静の状態が続くことによって、筋肉が萎縮して、関節が思うように動かすことができなくなることを筋性拘縮と言います。廃用性の拘縮は筋性拘縮であることがほとんどで、介護が必要な人に起こりやすいと言われています。
2) 神経性拘縮
神経性拘縮は例えば脳卒中の後遺症などで神経伝達がうまくいかなくなり、麻痺した側の手や足を動かすことができなくなることによって起こります。
3) 皮膚性拘縮
皮膚性拘縮は、火傷や手術などで、皮膚の真皮に損傷があるとひきつって関節が引っ張られて拘縮がおこってしまう状態を言います。皮膚の傷や火傷の痕は、瘢痕化(はんこんか)という、陥没や隆起などの痕が残り、皮膚が癒着してしまってひきつったままの状態になることがあります。このような皮膚の変化がおこった場合には、自然に治ることはないので手術が必要になります。手術によってひきつれが治れば皮膚性拘縮も改善させることができます。
4) 結合組織性拘縮
結合組織性の拘縮は、靭帯や腱などの筋肉同士をつなぐ組織が、癒着したり収縮することによって起こります。何か原因になる病気があるわけではなく、その部位の靭帯や腱を酷使することによっておこります。結合組織性拘縮は、関節を動かしたりすることで治るものではないため、医療機関での治療が必要になります。
5) 関節性拘縮
関節性拘縮とは、靭帯や関節を包んでいる柔らかい組織(関節包)などに炎症が起こったり損傷が起こったりするときに起こります。他にも、骨折やねん挫などで長期間関節を固定していたときにも起こり得ます。関節性拘縮も、医療機関での治療が必要な拘縮です。
拘縮が起こりやすい部位
廃用性の拘縮は、起こりやすい部位や、その部位でもどのような拘縮が起こりやすいかの傾向が決まっています。拘縮は、上半身では、指、手首、肘、肩の関節が拘縮しやすいといわれています。指関節では、伸ばす方向への制限がかかり、手首の関節は背屈(手の甲を反り返らせる)方向への制限、肘の関節では伸ばす方向への制限、肩の関節では、曲げたり回したりする方向への動きの制限がかかります。
また、下半身では、足首、ひざ、股の関節が拘縮しやすいと言われています。足首の関節は、背屈(足の甲を反り返らせる)方向への制限、ひざの関節では、伸ばす方向への制限、股の関節では、伸ばしたり回したりする動きへの制限がかかります。
拘縮を助長させる要因
介護の現場で特に目にするのは、筋性拘縮と神経性拘縮です。特に筋性拘縮は、寝たきりや、寝たきりに近い状態の人に起こりやすく、それを助長させる要因について理解しておく必要があります。
1) 長時間の同一姿勢
寝ている状態でも、常に筋肉は働き続けています。同じ体勢が続いてしまうと、同じ筋肉が常に緊張している状態が続くので拘縮が進んでしまうと言われています。
2) 不安定な姿勢
寝ている状態で、身体のどこかが浮いてしまっていたり、身体の置き所が無理な体勢になっていたりすると、過剰に筋肉が緊張し続けてしまい拘縮が進んでしまいます。
3) 強引に関節を動かす
速すぎる速度や、関節の遠いところだけをもって関節を動かすと、筋肉の緊張がより高まり拘縮の原因となります。また、すでに拘縮がおきかかっている状態で、痛みが伴うほど関節を動かすとそれによって、筋肉が過度に緊張してしまうため、拘縮をさらに助長させてしまいます。
拘縮を予防するためには
拘縮は一度起こってしまうと、改善するためには、長い時間と労力が必要となってしまいます。そのため、拘縮にならないように予防することが非常に重要になってきます。拘縮が起きてしまうと、その人が生活をする上でも、介護をする上でも様々な弊害がおこります。
例えば、足首の関節に拘縮が起こってしまうと、つま先立ちをしたような状態で足首が固まってしまうため、立ったり歩いたりすることが難しくなります。
もともと自力で立つことが難しい人でも、介助があれば立位や車いすへの移乗ができるような人の場合、足首の関節が拘縮してしまうと、足が地面に接しないため体重をうまく支えることができずに、介助者の不安がとても多くなってしまいます。他にも指や手首の関節が拘縮してしまうと、ものをつかむことができなくなったり、自分でできる日常生活動作の範囲が極端に狭まってしまいます。
このように、拘縮は一度起きてしまうと、本人にも介護者にとっても負担が大きくなってしまうので、積極的に予防していく必要があります。
1) 自分で動かせる場合
自分で関節を動かせる場合には、自分でできる範囲で関節をこまめに動かしてもらうようにしましょう。素早く動かす必要はないので、ベッドの上で一つ一つの関節を意識しながら、痛くない範囲で動かすようにします。一度にたくさんの運動をするのではなく、何回かにわけてこまめに動かすのがよいとされています。自分で関節を動かすことによって、どの範囲まで関節を動かすことができるのか、介護者が判断することもできます。
2) 他者が動かす場合
介護される人が自分で関節を動かしてみて、どの程度まで関節を動かすことができるのかを判断した後は、介護者がさらに関節を動かしてあげることが大切です。自分で動かせる範囲を超えて、かつ痛みがない範囲まで関節を動かしてあげることによって、関節の拘縮を予防することができます。自力で動かすことができない人に対しても、痛みがないところまで関節を動かすようにします。
他者が動かす場合にも、自力で動かすとき場合と同様に、素早く動かすのではなく、ゆっくりと痛みが出ないところまで動かしていくことが大切です。また、一度にたくさん動かすのではなく、こまめに動かすようにするようにしましょう。
動かしたい関節と遠いところの関節をもって無理に動かすのではなく、動かしたい関節もきちんと支えて優しく動かしてあげることも重要です。例えば、ひざの関節を動かしたい場合、足首のみをもってひざの関節を動かすのではなく、足首とひざの下をきちんと支えて、動かしたい関節に無理な負担がかからないように動かすようにしましょう。
3) 関節運動だけではなくストレッチも
関節を動かすだけではなく、筋肉を伸ばすことも大切です。約1分程度、筋肉が伸びた状態を維持することによって筋肉をやわらかく伸ばすことができます。筋性の拘縮は筋肉が動かないことによって起こりますので、筋肉を伸ばして柔らかくすることによって筋性拘縮を予防することができます。
4) 正しい体勢で寝る
関節拘縮の予防として、関節を定期的に動かすことは非常に重要ですが、それと同時に重要であるのが、普段から寝ているときに筋肉の緊張を和らげる体勢へと整えることです。人は寝ているとき、布団やベッドに接着している面に身体の圧力がかかります。この圧力が、数か所の決まった点に集中して無理な負荷がかかると、筋肉が緊張して拘縮が進んでしまいます。
そのため、全身のさまざまな点で隙間なく、布団やベッドと接着させて、身体の圧力を分散させることによって、無理な負荷がかからずに筋肉の緊張を和らげることができます。
例えば、枕をするときに首の下に隙間ができてしまうと、肩と頭で上半身の体重を支えることになるので首まわりの筋肉の負荷が増えてしまいます。同様に、ひざの下に隙間があると、お尻やかかとに圧力がかかります。このように、横になったときに布団やベッドに隙間ができる場合には、クッションを入れるなどして隙間を埋めるようにしましょう。
そして同一の体勢で寝ているとどうしても、クッションで隙間を埋めていても身体の圧力が同じところにかかって筋肉が緊張して固まってしまうので、こまめに体位交換をするようにしましょう。同じ体勢で寝る時間はできれば2時間以内にとどめるようにしましょう。横向きなどに体位交換したときにも、身体と布団やベッドとの間に隙間があかないように上手にクッションなどを差し込むようにしましょう。
また、体位変換をしたときに、身体がねじれていたり傾いていたりすると、身体全体に無理な負荷がかかり筋肉が緊張してしまい、本人へも不快な思いをさせてしまいます。体位交換をしたときには、上半身と骨盤の向きにねじれがないか、身体が不自然に傾いていないかを必ずチェックするようにしましょう。
拘縮の予防によるその他のメリット
拘縮を予防することで同時に介護におけるさまざまなメリットがあります。まず、定期的にストレッチや関節を動かす運動をすることによって、最低限の筋力低下を防ぐことができます。そのため、寝たきりの状態の進行を予防することに繋がります。
また、身体の圧力を分散させることや定期的に体位交換を行うことによって褥瘡(床ずれ)を予防することができます。床ずれは一旦できてしまうと、治りにくく、また痛みも伴います。
他にも、関節や筋肉を動かすことによって少しでも日中の活動量を増やすことができ、それが食欲増進へとつながることもあります。口から食事をとることは、点滴や胃管から栄養をとるよりも栄養面や健康面で多くのメリットがあります。完全に寝たきりになってしまって、日中の活動量が減ってしまうと、どうしても食欲がわかずに徐々に口から食事を摂取できなくなってしまいます。
また、全身の筋力が低下すると、口に食物を取り入れて、噛んでまとめて飲み込むという、咀嚼(そしゃく)の一連の動作が難しくなってしまい誤嚥(ごえん:誤って肺の方へと食べ物などが流れてしまうこと)してしまうことがあります。寝たきりの人にとって、誤嚥は命にもかかわる非常に危険なことです。拘縮を予防して、正しい姿勢でしっかりと噛んで飲み込むことは健康に長生きするためにとても重要なことと言えます。
『寝たきりでおこる拘縮』まとめ
介護をする人にとってもされる人にとっても、拘縮の問題は切り離すことができません。拘縮には、5つの種類がありますが、介護の場面で目にするのは筋性拘縮と神経性拘縮がほとんどであると言えます。これらの拘縮は、一旦拘縮してしまうとなかなか改善することは難しいので、予防をすることが重要になります。
拘縮を予防するためには、拘縮しやす部位を把握しておくことと、1日に何度もストレッチをして筋肉を伸ばしたり、関節を動かして運動させることが大切です。また、寝ているときの姿勢も正しくポジショニングすることが重要です。関節を動かすときには、痛みを感じない無理のない程度にゆっくりと優しく動かすことが大切です。寝ている姿勢は、身体の圧力が分散されるように、身体と寝具との間に隙間ができないように工夫をすることが大切です。
超高齢化社会の日本において、介護の問題は常に身近にあります。そして長期化する介護問題の中で、介護者の負担を少しでも減らすという考え方も非常に大切となります。まごころ弁当では、その人の嚥下機能(食べ物を口の中に取り入れて噛んでまとめて飲み込む機能)に合わせた食事形態を選択することができ、介護者が介護食を作る負担を軽減させることができます。
介護をされる側にとっても、介護者にとっても安心で安全なまごころ弁当を利用し、少しでも介護負担を軽減させることを検討してみてはいかがでしょうか。
◯病院名 :ブレインケアクリニック
◯住所 :東京都新宿区新宿2丁目1−2 白鳥ビル 2階
◯診療科 :心療内科・精神科・栄養療法・リワーク
《プロフィール》
・生まれ :新潟県
・学歴 :順天堂大学大学院医学研究科卒
・特技 :速読
・趣味 :街歩き、博物館巡り
・好きな言葉 :「壁は自分自身だ。」(岡本太郎)
・モットー :いつも明るく笑顔を絶やさない事
・プライベートの過ごし方 :平日にはできないことをして気持ちを切り替えています
・健康で意識していること :インスリンシグナルの抑制と十分な栄養素の補給、ストレスマネジメント
《資格・所属》
・博士(医学)
・精神保健指定医
・精神科専門医
・認知症診療医
・抗加齢医学専門医
・リコード法認定医
・日本精神神経学会
・日本抗加齢医学会
・日本認知症学会
・日本認知症予防学会 など