入浴中に起こる高齢者の意識消失や予防、注意点とは
作成日:2022年11月15日
冬になると、高齢者の入浴中におこる悲しい事故のニュースが増えてきますね。
本来であれば温かく、一日の疲れをいやしてくれる入浴、しかし、時には命とりになってしまうことがあります。
秋から冬にかけて特に注意が必要な入浴中の意識消失、今回は意識消失がおこる原因や予防するポイントについて、ご紹介します。
冬に増える入浴中の意識消失
入浴中の意識消失は、死亡事故につながることが多い危険な状態です。中でも寒さが厳しくなる冬場は特に増えると言われています。
お風呂に入っていて急に立ち上がった時など、急な眠気やめまいを感じたことはありませんか?ひどい場合はそのまま意識消失し、溺れてしまうことがあります。
入浴中の溺死事故は日本で増えている
WHOの死因統計によると、日本は溺死者数が他国に比べ多く、中でも高齢者の割合が3/4と高くなっています。(※1)
また、入浴中の高齢者の溺死事故数は増加傾向にあり、下の図に見るように、平成23年以降は交通事故死者数よりも多くなっています。
特に、浴室と脱衣室の温度差が大きくなる秋~冬が中心となっており、浴槽につかるという日本独特の入浴の習慣が、入浴中の溺死事故を増加させる原因の一つだと考えられています。
消費者庁 NewsReleaseより
参照(※1)厚生労働省の『入浴関連事故の実態把握及び予防策に関する研究について』
なぜおこる?入浴中の意識消失
ではなぜ、浴槽に浸かる日本の入浴スタイルが意識消失を引き起こすのでしょうか?
これは、「ヒートショック」とも呼ばれる急激な温度変化や、それに伴う血圧の変化に由来しています。
寒い冬の日、温かかったリビングなどから急に気温の低い脱衣室に行って衣服を脱ぎ、冷えた浴室に入る(血圧の上昇)、さらに、温かい湯(血圧の低下)につかる。
このような急激な温度変化は血圧の急激な変化を招き、脳内の血流が減ってしまいます。そのため、急な眠気のような症状や意識消失を起こしてしまいます。
浴槽の中で意識消失を起こしてしまうと、頭部が湯の中に浸かってしまっても引き上げることができず、そのまま溺れてしまうのです。
入浴時の水圧による作用
このような温度変化以外の要因として、入浴中の水圧も影響していると考えられています。
これは静水圧作用といい、浴槽に浸かることで、主に下半身が湯の水圧の影響を受け(静水圧)ます。
そのため、心臓は重く動きにくくなった下半身の静脈から血液を戻そうと心拍数を上げ、血圧が上昇します。
入浴中温まったことによる末梢神経の拡張と、この静水圧作用により虚血状態となり、立ちくらみや意識消失を引き起こしてしまいます。
入浴中の意識消失の予防
このように、入浴中の意識消失は居室と脱衣室や浴室、浴槽内の温度差から起こることが多いことが確認されています。
逆に考えると、持病がない方にも起こり得るということです。では、高齢者の入浴中の意識消失に伴う事故はどのようにして防ぐとよいのでしょうか。
家全体の温度差を少なくする
ヒートショックによる入浴中の意識消失は、自宅内の各部屋の温度差をできるだけ少なくすることで予防できます。
しかし、普段使用していない部屋にまで暖房器具を設置し、温めるのはなかなか大変です。
入浴前には浴槽の蓋や浴室の扉を開け、脱衣室から浴室の温度変化をなくしておくとよいでしょう。
入浴前に風呂の扉をあけたまま熱めのシャワーを暫く流して、浴室内や脱衣室を温めるのも効果的です。
ヒートショックに関しては、日本気象協会からヒートショック予報も発表されています。
家屋の状況により当てはまらないこともあるかと思いますが、参考になさってみてください。
浴槽の湯温は上げ過ぎず、長湯はしない
また、湯温にも注意が必要です。熱い湯が好きな方もいらっしゃるかと思いますが、どんなに寒い日であっても、41℃以上には上げないようにしましょう。
高齢になると皮膚の感覚が鈍くなってくるため、熱さを感じにくくなります。
そのため、ついつい追い炊きなどする方もいらっしゃいますが、体温が急に上昇することによる意識消失も起こります。
熱い湯につかったり長湯をしたりしてしまうと、意識消失だけでなく、必要な皮脂を失って肌の乾燥を引き起こしたり、汗をかいて血液がドロドロになり、脳梗塞や心疾患を引き起こしたりすることがあります。
入浴は長くても10分を目安にしましょう。
水位は浅めに設定しておく
浴槽の水位が高いと、湯に浸かっている時の下半身にかかる水圧も高くなります。そのため、先ほどご紹介した静水圧作用も大きくなってしまいます。
また、万が一意識消失した場合に、体がずれたり頭が前傾したりして水没し、溺れやすくなります。
湯量は少なめにし、少し冷えると感じるときは風呂の蓋を半分占めておいたり、肩や背中にかけ湯をしたりしながら温まるとよいでしょう。
飲食後すぐの入浴は避ける
食事のあとは血液が下がりやすくなっています。また、消化不良や嘔吐を起こすことがありますので避けましょう。
飲食のあとは最低でも1時間はあけるとよいでしょう。
浴室では急に立たない
入浴中は血管が拡張し、血圧が下がり気味になっています。そのため、急に立ち上がると立ちくらみを起こし、転倒する危険があります。
立ち上がる時は手すりや浴槽のふちに手をかけ、滑らないように注意しながら、ゆっくりと立ち上がりましょう。
とき、浴槽の蓋に手をかけると重みで蓋が外れたり滑ったりして危険です。
高齢者の入浴は家族の見守りも
同居している高齢者が入浴している時は、湯温が高すぎないか、入浴時間が長すぎないかを確認しておくことも大切です。
持病もなく、入浴介護が必要でない高齢者の場合も、入浴中は時々声掛けを行うなどして見守ることが大切です。
入浴後は水分補給も忘れずに
入浴後は利尿作用があるカフェインやアルコールを含まない水分を摂取することも大切です。氷を入れた冷たいものではなく、ぬるめのものを用意しましょう。
意識消失してしまった時のために
このように細心の注意を払っていても、意識消失してしまう方もいらっしゃいます。いざという時に慌てないためにも、対応方法を確認しておきましょう。
まずは、体が浴槽に沈んで溺れてしまわないように浴槽の栓を抜き、湯を捨てます。
意識を消失してしまっている高齢者を浴槽から引き出すことができる場合は暖かい部屋に運んで体の水分をふき取り、毛布などをかけて寝かせます。
体格が大きく、引き出すことが難しい場合は無理をせず、空になった浴槽でタオルをかけ、急に体が冷えないように注意しておきます。
呼吸が確認できる場合は呼びかけを行いながら嘔吐に注意するなど様子を確認し、並行して救急に連絡し、指示を仰ぎましょう。
万が一呼吸が確認できない場合はその旨も救急隊に伝え、指示を受けながら胸骨圧迫を行います。
『入浴中の意識消失』まとめ
今回は、特に冬に増える高齢者の入浴中の意識消失について、その原因や対処法をご紹介しました。
水の音がするから大丈夫、と思いがちですが、高齢になるとのどの渇きや湯の熱さを感じにくくなっており、意識消失までに至らなくとも、軽いヒートショックや血圧の変動により、入浴中に動悸や頭痛が起こっていることもあります。
見守りはしっかりと行い、楽しい入浴タイムを過ごしてくださいね。