在宅介護の食事で起こる、「困った」について
作成日:2023年9月11日
食事は生きるため、健康を維持するために欠かせないものであると同時に、毎日の楽しみのひとつです。
しかし在宅介護では、毎日3回の食事の準備や介助に多くの手間と時間が必要となることがあり、介護者が負担を感じることは少なくありません。
今回は在宅介護の食事で起こる、困ったときの対応事例を紹介します。
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目次
在宅介護で必要な食事介助とは
食事介助は「口腔内に食べ物を運ぶ」ことだけではなく、安全な環境で安心して、できる範囲で自分で食べられるように支援することです。
疾患や障がいがある方の場合は、ひとりひとりの状態に応じて特別な対応が必要なことがありますが、基本的には「ひとりではできないことを手伝う」という考え方です。
安全で安心できる食環境を作る
食事を摂る場所は基本的に、室温や明るさを調節して快適な状態にしておきましょう。
食卓にはできる限り食事に必要なもの以外は置かないようにして、食事に集中できる食環境を整えます。
摂食嚥下機能に適した食事形態で、身体機能に合った食具を使用することも安全に食事をとるためには大切です。
また安心して居られる環境を作ることも大切で、認知機能の低下がある場合には、周囲の人の対応や少しの環境変化にも不安を感じることがあり、食事に悪影響を及ぼすことがあります。
できないことを補う
食事の準備も含めて、できることは自分でできるように支援しましょう。自分でできることを奪わないことは、尊厳を守ることにもつながります。
いすやテーブルの高さ、食器や食具などを工夫することで食べやすくなったり、自分で食べることができるようになることもあります。
食事のときにチェックすること
食事のときに必ずチェックしたいポイントがあります。これらのポイントは安全に食事を摂るために、年齢や要介護度にかかわらず大切なことです。
覚醒の確認
食事を食べ始める前に体調と覚醒状態の確認をします。しっかりと目が覚めていることを確認し、顔色や表情を見て、声をかけて反応を確認しましょう。
ウトウトしているような状態で口の中に食べ物や薬を入れることは、誤嚥や窒息のリスクが高く非常に危険です。
声をかけたり、手や顔を洗うなど少し動くことでしっかりと目が覚めれば問題ありませんが、いったん覚醒してもすぐにまたウトウトしてしまうようなときは、食事を後回しにした方がよいこともあります。
前夜によく眠れていなかったり、早朝に目が覚めてしまったなどで朝食前に眠気が出ることは誰にでもありますが、薬の副作用や脱水症状、低血圧、認知症などが原因で、日中に眠気が生じていることもあります。
日常的にウトウトしているような状態(傾眠)や日中の眠気が強い場合には疾患の可能性もあるので、かかりつけの医師に相談してみましょう。
近くで見守る
ご自身で食事が摂れる方であっても、食事中は誰かが近くで様子を見守るようにしましょう。
毎年お正月には、お餅を食べた高齢者の窒息事故がニュースになります。
お餅で窒息する可能性は、必ずしも摂食嚥下機能に障害があったり、要介護者とは限りません。
普段は問題なく食事を摂っている高齢者の方でも、日常的に食べていない食品、食べ慣れない食品などでは、誤嚥や窒息のリスクが高まることがあります。
また体調によっても食べる機能に変化が起きることがあるため、食事中は誰かが近くで様子を見ているようにしましょう。
無理強いしない
ひと口でも多く食べて欲しいという気持ちから、介助者はつい「食べて」と言ってしまうことがあります。
しかし「食べたくない」や「食べたいけど、食べられない」という状態は誰にでもあることです。
食べないのではなく、食べられない理由があると考えるようにしましょう。
少し時間を空けて仕切り直すと食べられることもありますし、食べられない理由がわかれば対処ができます。
全く食べられない、強く拒否をする、水分も摂れないなどの状態が続く場合は、体調不良や疾患の可能性も考えられるため、かかりつけの医師や看護師などに相談しましょう。
食事の「困った」対応事例
毎日一緒にいる家族でも原因がよくわからない、「困った」「どうして?」と思うことが起きることがあります。
そのような時は少し目線を変えて観察したり、いつもとは違うことをしてみると解決することもあります。次に2つの事例をご紹介しますが、これらはあくまでも結果的に成功した事例のひとつで、同じ方法がどなたにも当てはまるわけではないことをご理解ください。
またどちらの場合も、医療・介護関係専門職種のアドバイスをもとに、ご家族がリスクをご理解の上で対応をしています。
事例① どうしてもカツサンドが食べたかったケース
88歳の女性、上下総入れ歯ですが日常の食事はほとんど問題なく、ご自分で食べることができています。
ある日「カツサンドが食べたい」とおっしゃったため、息子様が近所のパン屋さんでカツサンドを購入してきました。
嬉しそうに食べ始めますが、厚みのあるカツが噛み切れません。
「カツが硬いから食べられない」と話されたため、息子様が1切れ食べてみたところ、カツはとても柔らかいと感じたため「硬くない」と言うと、ケンかになってしまいました。それを見ていたお嫁様が、カツを薄くしてサンドイッチにしたり、メンチカツでサンドイッチにしたりと工夫しましたが、どれも気に入らない様子でした。
何とかカツサンドを食べさせてあげたいというお嫁様からケアマネジャーに相談があり、ショートステイを利用している施設の管理栄養士から、カツを食べやすくする工夫をお嫁様に伝えました。
何度か試作の後、お昼ご飯にカツサンドを出したところ、食べるのに時間はかかりましたが、1切れを完食して「ごちそうさま」と満足そうに言ってくれたそうです。
管理栄養士の伝えた工夫の効果もあったと思いますが、お嫁様の気持ちが嬉しく、満足感につながったのではないかと感じました。
事例② とろみが無くても炭酸飲料が飲めたケース
認知症により言葉でのコミュニケーションが難しい95歳の女性です。
飲水時、むせ込みが日常的となっていたため、飲み物にはとろみをつける対応を始めましたが、嫌がる様子があってなかなか水分が摂れないことをご家族が困っていらっしゃいました。
好んで飲んでいた飲み物がないか娘様に伺うと、夏になるとたまにサイダーを買って飲んでいた、ということでした。
しかしサイダーにとろみをつけると、サイダー特有の爽快感が減少してしまいます。
娘様が試しにサイダーを、大きめのカレースプーンにすくって口元に持っていくと、ご自分で啜ってむせることなく飲むことができました。
何度か繰り返してむせることなく飲むことができたため、娘様が調節しながら徐々にひと口量を増やしていきました。
どうしてサイダーはむせずに飲めるのかはっきりと理由はわかりませんが、できないと決めつけずに試してみることも必要だと感じたケースです。
食事の「困った」、解決の糸口は
困ったことが生じたとき、まずはその様子をよく観察してみましょう。
ちょっとした会話や表情、動作などにヒントがみつかるかもしれません。
また食事のことであっても、食事とは関係が無いと思えるようなところに原因があることもあります。
食事の場面だけではなく、生活全般を広く見ることで気が付くことがあるかもしれません。
今までの食習慣を振り返る
食習慣は人それぞれであり、長年続けてきたことはなかなか変えられなかったり、変わることで不安になることもあります。
食事の文化や価値観は年齢や地域によっても大きく異なり、その人の歴史の一部ともいえるため、一緒に生活してきたご家族でなければ気づけないようなこともあります。
今の状態だけを見るのではなく、これまではどうだったかを思い返すと解決策がみつかることがあります。
専門職に相談する
在宅介護の困りごとについては、多職種がそれぞれの経験と知識で一緒に考えます。
食事については栄養士・管理栄養士はもちろんですが、看護師、歯科衛生士、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのリハビリ専門職、薬剤師などが協働して、専門的な目線で見ることで解決の糸口が見えてくることがあります。
食事について困ったことがあるときは、担当のケアマネジャーやかかりつけの医師に、専門職の意見が聞いてみたいと伝えてみましょう。
在宅介護の食事で起こる、「困った」について
在宅介護では、介護者の思いに反して「困った」状況が起こることがよくあります。
しかしその「困った」と感じる行動や状態にも理由があり、その理由がみつかれば対応することができます。
食事は長年続けてきたその人の歴史の一部ともいえます。
食事の場面だけではなく生活全体を振り返ってみることで、解決の糸口がみつかるかもしれません。
また、専門職に相談することも有効な対応策につながります。