生命維持に必要なカロリー、「基礎代謝量」を計算してみよう
作成日:2023年10月23日
人は生きるためには食べなくてはなりません。
私たちは何もしていなくても、眠っているときでも、体内の臓器は働き続けており、エネルギーと栄養を消費しています。
生命を維持するためにはどのくらいのカロリーが必要なのかを考えてみましょう。
目次
生命を維持するために必要なもの
人が生きるために必要なものが酸素と水とエネルギーです。
酸素はおよそ3~5分供給されないと死に至り、水は体内の水分のうち10%以上が失われると生命に危機が及ぶといわれています。
エネルギーを食べ物から補給できない場合は、体内に蓄えている栄養素を順次エネルギー源として利用し、体内に蓄えた栄養素が枯渇すると生命が維持できなくなります。
食べ物が補給できなくなってからエネルギーが枯渇するまでの時間は、年齢や体格などの要素や周囲の環境による影響も大きいため、数週間から数か月といわれています。
人が消費するカロリーについて
カロリーとはエネルギーを表す単位のひとつで、食品のエネルギーや人間が利用するエネルギーはkcal(キロカロリー)で表されます。
1kcalは、1気圧の下で1ℓの水を1℃上昇させるために必要なエネルギーと定義されています。
人が消費する総カロリー量は大きく分けて、基礎代謝量と食事誘発性熱産生、身体活動量で構成されています。
生命維持に必要なカロリー「基礎代謝量」
基礎代謝量は安静仰臥位、覚醒した状態で必要なエネルギーのことで、生命維持のために消費される必要最小限のエネルギー量と考えます。
一般的な生活においては1日の消費エネルギーのうちおよそ60%を基礎代謝で消費していると考えられていますが、基礎代謝量は個人差が大きく、年齢や体格、体組成などさまざまな要素で変動します。
食事に伴う消費カロリー「食事誘発性熱産生」
食事誘発性熱産生は食事を摂ったときに消費するエネルギーのことで、特異動的作用ともいわれます。
食事誘発性熱産生がどのくらいのエネルギーを消費するかは栄養素の種類によって異なり、タンパク質のみを摂取した場合はエネルギー摂取の約30%、糖質のみの場合には約6%、脂質のみ場合には約4%と考えられており、実際の食事にはこれらの栄養素が混ざっているため、食事誘発性熱産生は食事から摂取したエネルギーの約10%として考えます。
運動によって消費されるカロリー「身体活動量」
身体活動量は、生活の中で体を動かすことで消費されるエネルギー量と、運動によって消費されるエネルギー量があります。
基礎代謝量と食事誘発性熱産生は、日常的にはあまり大きく変動しませんが、身体活動量は体を動かした量によって変動し、1日の総エネルギー消費量に大きく影響します。
その他
人のライフステージにおいては、消費カロリーが増加する時期がいくつかあります。
例えば妊娠中・授乳中の女性は、胎児の成長や母乳を作るためのエネルギーが必要ですし、子どもは成長に必要なエネルギーを考慮する必要があります。
また年齢や性別にかかわらず外傷や侵襲があった場合には、その回復に十分なエネルギーの付加が必要です。
このような状況下では、基礎代謝量、食事誘発性熱産生、身体活動量の他に、状況に応じて適正量のエネルギーを付加することが必要です。
基礎代謝量の計算について
生命を維持するために必要なエネルギー量である基礎代謝量は、正確に測定するには専用の装置や大掛かりな設備が必要であり、誰でも測定できるものではありません。
一般的に基礎代謝量は計算式によって算出されますが、性別や年齢、体格などによって個人差があり、さまざまな要素によって、同一個人であっても変動することがあります。
基礎代謝量に影響する要素
基礎代謝量は、年齢、性別、体表面積、筋肉量などの影響を受けます。一般的に年齢は若い方が代謝が活発であり、基礎代謝量は高くなります。
また男性の方が女性に比べて体格が大きく、筋肉量が多いため、基礎代謝量は高くなります。
同一個人であっても、体温が1℃上昇すると基礎代謝は12~13%亢進すると考えられており、夏よりも冬の方が基礎代謝量は増大するといわれています。
さらに女性は月経の影響を受け、女性ホルモンの分泌量の変化によって基礎代謝量も変動すると考えられています。
基礎代謝量の計算式
基礎代謝量はいくつかの計算式によって推計することができます。
一般的にはハリスベネディクトの式が比較的多く利用されていますが、いずれの計算方法も年齢、身長、体重を利用した計算式です。
あくまでも推計値であり、実際の基礎代謝量には個人差やさまざまな要素によって変動があることを前提として利用します。
基礎代謝量基準値
性別・年齢別に定められた基礎代謝基準値に、現在の体重を乗じて基礎代謝量を算出します。
1歳から17歳までの基礎代謝基準値も定められていますが、ここでは18歳以上について挙げます。
体重あたり基礎代謝基準値(日本人の食事摂取量2010年版)
年齢(歳)
| 男 | 女 | ||||
基準体位 | 基礎代謝 基準値 | 基準体位 | 基礎代謝基準値 | |||
身長(㎝) | 体重(㎏) | 身長(㎝) | 体重(㎏) | |||
18〜29 | 171.4 | 63.0 | 24.0 | 158.0 | 50.6 | 22.1 |
30〜49 | 170.5 | 68.5 | 22.3 | 158.0 | 53.0 | 21.7 |
50〜69 | 165.7 | 65.0 | 21.5 | 153.0 | 53.6 | 20.7 |
70以上 | 161.0 | 59.7 | 21.5 | 147.5 | 49.0 | 20.7 |
例えば、平均的な身長の35歳の女性で、体重が50㎏の場合の基礎代謝量は
50(㎏)×21.7(kcal/kg/日)=1085(kcal)となります。ただし、体格が基準体位から大きく外れる場合には推計値にずれが生じます。
ハリスベネディクトの式
ハリスベネディクトの式は、もともと欧米人を対象に作られた計算式のため、日本人ではやや高めの数値になる傾向があるといわれています。
次に挙げる式の他にも簡易版や日本人版もあります。
男性:66.47+(13.75×体重(㎏))+(5.0×身長(㎝))-(6.76×年齢)=基礎代謝量(kcal)
女性:665.1+(9.56×体重(㎏))+(1.85×身長(㎝))-(4.68×年齢)=基礎代謝量(kcal)
身長156㎝、体重50㎏、35歳の女性の場合の基礎代謝量は
665.1+(9.56×50)+(1.85×156)-(4.68×35)=1267.9(kcal)となります。
国立健康・栄養研究所の式
独立行政法人国立健康・栄養研究所が作成した、基礎代謝量の計算式です。
男性:((0.1238+(0.0481×体重㎏)+(0.0234×身長㎝)-(0.0138×年齢)-0.5473×1))×1000/4.186=基礎代謝量(kcal)
女性:((0.1238+(0.0481×体重㎏)+(0.0234×身長㎝)-(0.0138×年齢)-0.5473×2))
×1000/4.186=基礎代謝量(kcal)
身長156㎝、体重50㎏、35歳の女性の場合の基礎代謝量は
((0.1238+(0.0481×50)+(0.0234×156)-(0.0138×35)-0.5473×2))
×1000/4.186=1099.3(kcal)となります。
カロリーと栄養についての解説
人間が食品からエネルギー源として利用しているのは、炭水化物、脂質、タンパク質であり、これら3つの栄養素は「3大栄養素」や「エネルギー産生栄養素」と呼ばれます。
3大栄養素は体内で、炭水化物(糖質)→脂質→タンパク質の順番でエネルギーとして利用されますが、お互いに変換されて利用される仕組みがあるので、バランスよく摂取することが大切です。
炭水化物
糖質と食物繊維を合わせて炭水化物と呼びます。食物繊維は人の消化酵素では分解されず便として排泄されますが、体内ではさまざまな働きを持つ重要な成分です。
糖質はエネルギーとして利用され、糖質1gから約4kcalのエネルギーが産生されます。
日本人の食事摂取基準では1日に必要なエネルギーのうち、50~65%を炭水化物から摂取することを目標とされています。
脂質
脂質は1gで約9kcalのエネルギーが産生されます。少量の摂取で多くのエネルギーを得られるので、効率のよりエネルギー源といえます。
食品に含まれている脂質はいくつかの種類に分類することができますが、そのうち多価不飽和脂肪酸は人の体内では合成できないため食品から摂取する必要があり、必須脂肪酸と呼ばれます。
脂質はエネルギー源となるだけではなく、細胞膜やホルモンの材料となるなどの重要な役割があります。日本人の食事摂取基準では1日に必要なエネルギーのうち、20~30%を脂質から摂取することを目標とされています。
タンパク質
タンパク質は1gで約4kcalのエネルギーが産生され、エネルギー源として利用することができますが、体を構成する成分として重要です。
食事から摂ったタンパク質はアミノ酸に分解されて吸収されますが、体タンパク質の合成に使われなかったアミノ酸や、過剰に摂取されたアミノ酸、糖質がエネルギー源として利用できない場合などにはエネルギー源として利用されます。
日本人の食事摂取基準では1日に必要なエネルギーのうち、13~20%をタンパク質から摂取することが目標値とされています。
特に高齢者では十分なタンパク質の摂取が必要と考えられており、65歳以上では15~20%が目標とされています。
「基礎代謝量」を計算しよう
生命維持に必要なカロリーは基礎代謝量で表されます。基礎代謝量は性別ごとに年齢、身長、体重の数値を用いて計算で推計することができます。
実際に健康な生活を維持するためには、基礎代謝量に生活や運動によって消費されるカロリーを加えることが必要です。
基礎代謝量は、個人差に加えてさまざまな要素で変動するため正確に算出することは困難ですが、実際に摂取カロリーの過不足を評価するには体重の増減を基準に、体脂肪率や筋肉量なども観察しながら調節しましょう。